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第4話

 天宮千晶。少年はまるで...―――――  「 害虫のようだな 」  ここ数日、春臣は千晶と共に生活してそう感じた。深い深い侮蔑を含めて。  透き通るような白い素肌に、黒い大きな瞳。頬の血色も見られないそれは陶器のようでさえあった。  京太自身、整った顔をしてはいるが、顔の美しさ、緻密さであれば千晶の方がはるかに優っていた。それに加え少年特有の幼さが千晶の容姿を一層儚げにつくりあげていた。  だが“中身”は全く違った。  家に1人にしたくない、と学校終わりの千晶を事務所に頼み込んで京太は春臣たちの仕事場まで連れ出すことが何度もあった。  そうしていれば周りには“テレビの中の人間”が現れるのだが、千晶は喜ぶことも媚びることもなく、興味なさげにいつも空を見ているばかりだった。寧ろ、中には美少年である千晶に近づく者もいたが、当の本人は無表情でから返事をするのみ。常識はあるのか失礼な態度をとることはないのだが、全く愛想を振舞うことがなかった。  だが、それでも誰しもが千晶に好意的であった。千晶の興味を引こうとしていた。  態度の変わることのない少年。媚びることもせず、愛想もふりまかない。他人から嫌われることを恐れず自分のしたいように行動していた。それが、春臣には自分勝手な害虫のように感じた。    互いに美しいと謳われてきた境遇は似ていた。しかし根本的な面で2人は違っていた。  自身を偽り、世を渡ってきた春臣と千晶は真逆な存在だった。  自分よりも6つも下で汚れを知らない“真っ白な状態”  春臣が14のころにはすでにテレビにも出て今のように自分を偽って生きていた。それは全て役者という地位を守る為。春臣にできなかったことが千晶にはできた。  ― それがひどく妬ましかった。  「千晶、今日君が話してた男の人はすごく有名なプロデューサーさ。もしかしたら中高生向けの番組の出演オファーが来るかもね。どう、そうなったら出てみるかい?」  仕事から帰り、3人での食事中、京太は嬉しそうに千晶に話しかけた。やはり自身の息子が気に入られるのは親として嬉しいのか、終始ご機嫌な様子だった。  「さぁ、興味ないからわかんない」  京太お手製の料理を口に運びながら千晶はつまらなそうにそう言った。その反応もまた春臣の癪に障る。...京太の手前、表情には出さないが。  「ねぇ、あんたはどう思う?俺がテレビに出たら」  かと思っていると、話の矛先は突然無言で食べていた春臣に向けられた。まさか話しかけられるとは思いもせず、一瞬動きを止めてしまうが、少し考えて一つしかない答えを述べた。  「俺は役者以外に興味はない。だからお前がテレビに出ようが俺は何とも思わない」  これが春臣の本音であった。自分とは違う、千晶の存在は妬ましくは思うがそれが自分の役者生活に関わらないのならさして興味はなかった。ただ、この3人での生活に関しては千晶に不満ばかりが生まれてはいるが。まさに目の上のたん瘤のような状態だ。  「...よく役者なんてやってられるね。あんな他人に偽ってばかりのお仕事。俺は絶対にやりたくないね」  「こら、千晶なんでそんな――――」  「お前がなんと言おうと俺の全てはそれなんだ。役者を始めて俺は救われた、何もかもから」  春臣の言葉にすべての経緯を知っている京太は言葉を飲み込んだ。そして有無を言わせぬその言葉は千晶さえも黙らせた。  静まった会話。それ以上、何を言うこともなく春臣は食事を終え自室へと入っていった。

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