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第9話

 「今日、誠太と飯食べてくるから俺の分用意しなくていい」  「...誠太君か。お前が誰かに興味を持つのはいいことだけど...千晶のこともよかったらかまってやってくれないか?お前が誠太君と出かけてることは今まで言ってないけどお前が家に居なければいつもどこにいるんだって僕に訊いてくるんだ」  「ふーん。まぁ、機会があったらな」  それ以上は何も言わず、2人分の料理を作る京太を尻目に春臣はジャンバーを羽織ってマンションを後にした。  誠太と知り合ってからというもの、春臣は頻繁に誠太を連れ出してご飯を共にした。  今では千晶の都合は関係なく、春臣の仕事のスケジュールが早く終わった日には電話をして呼び出していた。  誠太自身、春臣と会っていることは千晶に言っていないらしかった。また、京太の口からも何も知らされていない千晶は最近では春臣に頻繁に話しかけるようになった。と言っても、いつも言われるのは嫌味か小言ばかりだが。  いつも眉間にしわを寄せて嫌そうに話しかけてくる千晶が不思議でたまらなかった。そんなに嫌ならば話しかけてこなければいいだろうに...と、そう思えてならない。  春臣自身、千晶の存在は邪魔なものであるが、千晶からしてみれば春臣もまた邪魔な存在であると思っているのかもしれない。  言ってしまえば、千晶は急に初めて会う自分の父親と赤の他人の3人で1つ屋根の下で住むことになったのだ。  ― 俺なら嫌だね  だからと言って千晶に優しく接してやろうという気にはならないが。  ―――  ――――――  ―――――――――  「今日もありがとうございました」  「こちらこそ、たくさん誠太の面白い部分を知ることができてよかった。楽しかったよ」  食事も終わり、いつものように春臣は誠太の家の前で車を止める。  助手席に座る誠太は可愛らしい。従順で素直でそれでいて子供らしい一面も見せてくれる。成長途中の未発達なその存在ははかなさがあり、すぐに壊れてしまいそうな危うさもあった。  そんな存在を汚さないよう、壊さないよう溢れる欲望を耐えて愛でることが楽しかった。  ― 本当、いい暇つぶしだ  役者以外でこんな楽しいことがあるなんて知らなかった。春臣にとって性的な好意はただの性処理としてしか見ておらず、恋愛も煩わしいものだと思っていた為、今まで特定の相手に興味を持つことがなかった。  「ねぇ、誠太。どうして千晶に俺と会ってること言ってないの?」  だから、苛めたくもなる。興味があるからこそ。  「え...っ、それは...」  「何もやましいことをしてるわけでもないのに...後ろめたい気持ちでもあるの?」  困ったように、誠太は口を閉ざし、眉を下げる。その表情に...―― ゾクゾクとした。やんわりと下半身が反応する。  ― あぁ、犯したい。  そんな気持ちが溢れ出す。だが、そんなことをしてしまえば、開きかけた扉を閉ざされてしまうかもしれない。  「俺は誠太とやましいこと、したいけどね」  「えっ...ん゛ンっ」  耳元で囁き、俯いていた顔が上がった時、春臣はその薄く、小さい唇にキスをした。  慄き、開いた唇を通って口腔を犯す。上顎をこすればくぐもった声が鼓膜を振動させた。名残惜しいその唇もすぐに解放し春臣はニコリとほほ笑んだ。  「こんな俺は、嫌?」  そう言えば、顔を真っ赤にさせ誠太は首を横に振った。  「よかった。それじゃあまた明日も会える?」  首を縦に振るのを確認し、春臣は笑むと一度車を降り助手席の扉を開けてやる。  そして会釈して家の中に入る誠太を見送って春臣は車の中に戻った。止めていたエンジンをかけ、家に帰ろうとアクセルに足を置いた時...  ― ドンドンドンッ、  助手席側の窓を強く叩かれ、一体誰なんだと春臣は煩わしそうに横を向いた。  「っ、千晶...」  そこには、寒さから鼻を赤くさせた千晶の姿があった。なぜこんな時間にこんなところにいるのかはわからなかったが、千晶は何を言うでもなく扉を開けると勝手に助手席に座ってきた。  機嫌が悪いのかいつになく愛想のないその雰囲気に嫌気がさしたが、春臣も絡むのが面倒臭くなり何も言わずに車を発進させた。

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