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第34話※千晶視点

 「あれ、奏多。どうしてこんなとこにいるの」  「どうしてって...凪があかりちゃんと歩いて行くのが見えたから、つい...」  「つい、慌てて追いかけてきちゃったの?」  俯き、吃る春臣を千晶はクスクスと小悪魔な笑みを浮かべて覗き見る。その表情もやはり、普段の千晶からは想像もつかないものであった。  今日撮る内容は凪と奏多が遂に友達という枠を外れた関係になるシーンであった。  - と言ってもキスシーンがあるだけだけど。  徐々にヒロイン役のあかりと仲が良くなっていく様子を見て焦る奏多。その役を演じている春臣は昨日の情事を全く感じさせない完璧な演技をしていた。  「どうして僕があかりちゃんと一緒にいるとそんなに慌てるの?」  「...っ、」  「本当は、気がついてるんでしょう。どうして自分が焦っているのか」  春臣の手を軽く握れば途端にその手は汗を掻きしっとりと濡れる。それはきっと演技じゃない。完璧な演技をする春臣だが、心の底では恐れているのだ、俺のことを。  外面を見ただけじゃわからない、春臣の焦りを感じて気持ちは高揚する。  「嫌なら、振り解いて。僕は強制はしないよ」  「お前、ずるいよ...」  徐々に近づく距離。鼻と鼻がぶつかりそうなほど近くにある端正な顔立ち。薄い唇は形が良く、男の色香を放っていた。それを間近に見て無意識に千晶の喉が鳴る。  - この唇と、誠太は何度もキスをしたのだろうか。  何となく、胸がずきりと痛んだが千晶はそれに気がつかない振りをした。  「ぅん...っ、」  遂に触れ合う唇。しっとりとしたそれは思ったよりも柔らかく吸い付く。  「凪...っ」  初めは千晶からのバードキス。そして次には春臣からのディープキス。  深い口づけに春臣も千晶も頬が紅く染まっていく。  - 春臣の匂い、春臣の体温、春臣の唇、春臣の舌、春臣の唾液、全部春臣の...  「凪、好き...好きなんだ」  熟れたような瞳がこちらを見てそう告白する。その間にもキスは止まらず深い愛情を示すかのような激しさを伴う。  求められるように舌を吸われ嬲られる。  - でもこれは春臣の演技だ。嘘くさい、いつもの演技...そんなのわかってる、のに...なんで、  千晶の胸は先程とは違う意味で高揚し鼓動を打っていた。春臣と触れ合っている唇を中心に敏感になる自身の体。好きだと言われ求められて...そんな演技に喜んでいるというのだろうか。  最後に2人の間に訪れるのは荒い息遣い。  耳の奥で聞こえる監督の声。そうしてこのシーンは終わった。  

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