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第35話
「え、何。本気で行くつもり?」
今日の撮影も終わり日も落ちた頃、春臣は目の前にいる男を見て口元を痙攣らせる。
「本気だったら悪い?」
「いや、そういうことじゃなく...」
「それじゃあどこでもいいから予約しておいて」
そう言い国道に向かって歩いていく千晶の後を春臣はため息を吐きながら追いかけた。
遡ること数時間前、撮影の休憩時間中に突然千晶は“今日は外食したいから春臣もついてきて“と半ば強制的なお誘いをしてきたのだ。
今まで千晶から誘われるというアクションを受けたことのなかった春臣は驚きと面倒臭さで内心溢れかえる。
ただ、性的な命令ではないのが不幸中の幸いだが。
-てか、一体どこの店予約すればいいんだよ。地元でもないから知らないし。
千晶が何を思ってご飯に誘っているのかが全く読めない。昔の復讐をしているのかと思えば意図が読めないことをする場面も多々ある。
とりあえず、てきとうに口コミで評判が良く個室が設けられている場所を探す。当日予約で大丈夫だろうかと心配になるが今日が平日であったこともあり意外と条件に合う店は何軒かあった。
「無難に居酒屋でいいか」
どうせ質問しても無駄だろうと店は勝手に決めて電話予約していれば、視界の端にタクシーを拾って乗り込む千晶の姿が映る。
- あいつ、本当に好き勝手しやがって。
喉まで出かかった文句を飲み込み、慌てて春臣もタクシーに乗り込む。運転手に店名を告げれば愛想の良い返事がして車は出発した。
「天宮くん、居酒屋さん予約しておいたから。今日はそこで晩ご飯でも食べようか」
「あぁ、そう」
隣に座る千晶は相変わらず自分勝手で無愛想な様子だ。感情の読めないその視線はどこを見るでもなく窓から外を眺めていた。
タクシーに乗って十数分後、春臣たちは目的の居酒屋に着いていた。
しかしその場にいたのは春臣たちの他に男女4人。
「わぁ、偶然ですね!藤堂さんたちもここに来る予定だったなんて」
「本当偶然だね。姿が見えた時はびっくりしちゃったよ」
その4人...今回の映画の俳優陣は驚きつつも期待を込めた目でこちらを見ていた。
「あの、もしよかったらなんですが席ご一緒しませんか?」
その第一声は春海であった。普段謙虚な様子の春海にしては珍しい誘いだ。きっと周りの3人も相席を期待しての眼差しなのだろう。
- まぁ、千晶と2人きりよりは幾分マシか。
「もちろん、大丈夫だよ。ね、天宮君」
「...勝手にしたら」
不躾な態度にやや固まる4人であったが「天宮君、人見知りだから恥ずかしいんだよね」と春臣のフォローを聞いて安堵した様子であった。
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