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第47話
ある時は数少ない休日に、
「春臣、買い物ついてきて」
またある時はテレビを見て何気なく言った春臣の言葉を聞いて、
「春臣、これ食べたいって言ってたから作った」
そしてしまいには自身の部屋に居座り、
「春臣の部屋物がないから読書に最適なんだよね」
特徴的な猫目を笑ませ、したり顔で春臣の部屋の椅子を占領する。
撮影が終了し、家に帰宅するようになってから数日。千晶の春臣への対応は依然として異様なものであった。
毒を吐くのは変わりなく、こちらからのアクションに対しての反応が塩対応なのも変わらない。しかし、それ以上に千晶から春臣への接触が多いのだ。
つい先日までの復讐の影は見えず、こちらが忘れてしまいそうになるほどだった。
ここまでこの異様な日が続くと考えることは一つ。
- もしかしたら、もしかするんじゃないか。
千晶が自身に好意を抱いているという仮定を。
「千晶、前から思ってたけどお前使ってるシャンプーいい匂いするよな」
目の前で読書をする千晶の邪魔をするようにして、その柔らかな髪を一束掬うとスン、と匂いをかいだ。
別段、千晶の髪の匂いなど考えたこともないが自身に好意を抱いているかどうかの反応を見るにはいい絡みであった。
「...っ、急に何。」
「ビックリした?お前顔赤いよ」
春臣の言葉で千晶の顔は更に赤くなり、まるで茹で蛸状態だ。
こいつは今までこんなにわかりやすいやつだっただろうかと思ったが、考えてみればそれ以前にまず、こんな風に関わったことがなかったから反応という反応を見たことがなかったことに気がついた。
それにしても...勘は当たりじゃないだろうか。
それにそうだと仮定すれば今までの千晶の行動の謎もすべて解かれていく。
- これは利用できる。
春臣は心の中でほくそ笑む。
これを上手く利用すれば自分は晴れて自由の身だ。
千晶がいつから自分に好意を抱き始めたのかはわからないが、そんなことは考えたところで無駄だ。
- 可愛がってやるからちゃんと俺のために“お仕事”してくれよ、千晶。
まぁ、全て片がついたら逆に弱味を握ってこの家からも追い出して今度こそさよならだ。
蔑んだ目をした春臣は千晶の後ろ姿を冷たく見据え、心の中で毒づいた。
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