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第48話

 「春臣君久しぶり!ずっと会えなくてすごく寂しかったよ」  久しぶりの再開を果たした誠太は爽やかな笑みを浮かべたまま春臣に抱きつく。  春臣よりも背が高い目の前の男は嫌がる素振りに気付かないふりをしているのか、はたまた気付いていないのか、中々春臣を抱きしめた手を離そうとはしない。  「いい加減離せ、煩わしい」  「そんな嫌がらないでよ、春臣君。昔は僕から抱きついたらすごく喜んでくれてたでしょ」  「...っ!」  離れ間際、誠太は耳元でそう囁くと春臣の頬をべろりと舐めた。その瞬間ぞわりと全身の鳥肌が立つ。  服の袖で舐められた箇所をすぐさま拭えば「春臣君かわいい」と誠太は満足気に笑った。  「今日は急にどうしたの、来るなんて言ってなかったじゃん」  誠太の分の飲み物を持ってきた千晶はそれを机の上に置きそのままソファに座る。  「だって言ったら千晶、春臣君外に出しちゃうんだもん」  「別にお前が来るのに合わせて春臣を出してるわけじゃないし」  誠太の発言に一瞬固まる千晶だが、目線はテレビに向けたまますぐに感情の読めない口調で返答する。  - てか、たまに家から出されてたのって誠太が家に来る時だったのか。  春臣はその事実を知り驚く。まるでそれでは千晶が春臣のことを誠太から守ってくれていたようではないだろうか、と。  いつも千晶に追い出されるようにして外へ出されて苛々していたが...  - 可愛いことするじゃん。ちゃんと“仕事”をしてくれてたんだ。  春臣は心の中で嘲笑う。  あくまでもシラを切る千晶の様子に誠太は僅かにムッとした表情をした。  「千晶、今更元になんて戻れないんだよ。お前、春臣君に何したか忘れたわけじゃないんだろ」  「っ、やめ...」  誠太は春臣の腰を乱暴に引き寄せると空いた手で首筋を撫でそっと口付けてくる。  思わず息をのむ春臣だが、次の瞬間には違う男の胸に抱かれていた。  「ちあ、き...」  「この家で変なことしないでくれる。父さんが帰ってきたら面倒なことになるから」  「...随分ムキになるんだねぇ」  「お前こそ、人の家で少しは自重したら」  春臣を間に誠太と千晶の雰囲気がどんどんと険悪になっていく。そんな中ただ1人、春臣だけは笑いを堪えるのに必死になっていた。  まるでこれでは自分がお姫様か何かにでもなった気分だ。  - そもそも俺はどっちも嫌いだっつーの。  誠太に抱き寄せられるのは嫌だが、だからといって千晶に抱き寄せられるのは平気というわけではない。嫌なものは嫌だ。  「あんたも少し無防備過ぎなんじゃないの」  千晶はそう言うと春臣を一瞥してそのまま解放する。  無防備も何も反応する間がなかったのだから仕方がないのでは、と思ったがここは喉まで上がってきた文句をグッと飲み込んだ。  「...気をつける」  「へぇ、珍しく素直だね。少しは俺の意見を聞く気になったんだ」  春臣の素直な反応に、千晶の声がワントーン上がる。  平気で毒を吐く冷たい口調は変わらないが、どことなく嬉しそうな雰囲気が伝わったのは春臣だけではない。  「面白くないね」  誠太はボソリと呟くと、玄関に向かって歩いていく。それを見て胸を撫で下ろす春臣であったが...。  「いいよ、それなら俺も好きにするから」  この呟きは2人の耳に届いてはいなかった。

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