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第3話
ピンポーン、とインターホンが鳴ったと同時に、ハッと目を覚ました。
どうやらソファーで寝ていたらしい。
鍵が回る音がしたので、俺は慌てて飛び起きた。
「けっ、景、帰ってきちゃった!」
いま冷蔵庫でガトーショコラを冷やしている最中だ。
バタバタとドアの方に走って行き、ドアの隙間から顔を覗かせると景と目が合った。
「ただいま」
「おっ、おかえり! ちょっと、そこで待っとって!」
「え、なんで? あ、料理してたの?」
「い、いいっていうまで、開けちゃダメやからな!」
返事を待たずにバタンと閉めて、俺は散らかっているキッチンを急いで片付けた。
使った調理器具や卵の殻を片付けて、どうにか元の状態に戻す。
冷蔵庫にあるガトーショコラの表面を指先でつつくと、程よく固まってくれているみたいでホッと一安心した。
本当は包装紙に包んで、プレゼントっぽく渡したかったけどしょうがない。
俺はエプロンを取り、ドアを開けてひょっこりと顔を出した。
「……お待たせ」
「うん。何作ってくれてたの?」
リビングに入ってきた景は、テーブルに乗ったガトーショコラを見てパァっと顔を明るくさせた。
「すごい。これ作ったの?」
「ん、まぁ」
ちょっと照れ臭くて視線を逸らすと、景は俺をぎゅっと抱きしめてくれた。
「ありがとう。早速食べてもいい?」
「ええけど、ごめん、夕飯まだ作ってなくて」
「ううん、いい。とりあえずこれ食べる」
キスをした後、景は荷物を置いて洗面所へ手を洗いにいった。
紙袋が二つあったので中身を除くと、それぞれ可愛らしい紙に包まれた箱が入っていたので「げっ」と思わず声を出す。
景……なんとなく予想は出来ていたけど、やはりチョコを貰ってきたか……
「あ、それ、宮ちゃんの奥さんから。そっちはタケからもらったやつ。ファンの人からのは、事務所のみんなに配られるみたいだから」
何も聞いていないのに自ら話してくれる景に、ちょっとホッとした。
ん、でも、タケさんからって?
「なんでタケさんが景にくれるん?」
「あぁ、タケ、今糖質オフダイエットしてるんだよね。彼女からもらったらしいんだけど、自分じゃ食べられないからって」
「ふぅん、そうなんや」
俳優さんって体調管理とか体型維持とか、大変なんだろうな。
景もタケさんも他の俳優さんたちも、本当に尊敬する。
ポットの水を沸かそうとスイッチを入れようとした時、景に止められた。
「紅茶よりも、お酒飲まない? 僕、美味しそうなの買ってきたんだ。準備するよ」
甘いものとお酒? と思ったけど、景は明日休みだし、飲みたいのかもな。そう思いながらガトーショコラを切り分ける。
キッチンで準備する景は、端っこに寄せていたボウルの中身を見て笑っていた。
「あれ、何このチョコ」
「あー、それ失敗してん。お湯の中に直接ぶち込んでもうて。捨てるんも、なんかもったいない気がして」
「あはは、何かに使えたらいいんだけどね」
数時間放置された失敗チョコは歪な形に固まってきている。食べられないことはないんだろうけど、きっと美味しくはないだろうなぁ。
「うん、美味しいよ。濃厚で」
ガトーショコラを一口食べた景にそう言われて、テンションが上がった。
「あぁ、良かったー。これ、景がおすすめしてくれた動画アプリで作ってみたんよ。やっぱあのアプリは神やな」
「動画であれば修介でも作りやすいかと思って。あ、こっちも食べてみて。お酒入りなんだって」
「へー、そうなんや。じゃあいただきまーす」
皿の上に乗せられたチョコを一つ、口に放り投げる。
今食べたのは、タケさんの彼女さんが作ったというチョコだ。
「うん、おいしい。なんか桃っぽい甘い味がする」
「そう、良かった。僕も多くは食べられないから、どんどん食べてね」
とっても笑顔な景を見ると、なんだか俺も嬉しくなる。
白ワインを飲みながら、少しずつチョコを口に運んだ。
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