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柊生はそれから信号待ちの度に、何件か電話をして 和真の原付の事を電話口の相手に淡々と指示していた。 それまでと全く違う、気取らないストレートな 話し方で「医者の友人」にも電話していた。 柊生が半分ふざけながらも、ゴメンゴメンと 何度も謝っていたから、きっとその友人は 怒っていたのだろう。 こんな深夜に突然連絡をしてきて 自分の事故の後始末を頼まれているのだ 普通の人間なら怒るよな。 和真はそう思いながら、なんとなく聞き耳をたてていた。 「うん、うん…ハイハイ 了解! あ、あと15分くらいで着くからよろしく!」 最後の方は無理やり話しを切り上げて 切ったようにしか見えない。 「…佐倉さんって…いつもそんな感じデスカ?」 和真は彼なりにオブラートにつつみつつも つい 嫌味なことを言ってしまった。 でも柊生は怒ることもなく、ぶっと吹き出して 笑いながら、いつもこんな感じデス。と答えた。 先程の友人にしていたように、和真に対しても フランクに話すので、少し驚いた。 「そう言えば さっき、ついてないことばかりって 言ってたけど、何があったの?」 そう聞かれて、和真は、あぁ、あれは…と言いかけて 少し考える。どれも初対面の人間に話すような 事じゃないな、と思った。 一番に浮かんでくるのは今日の失恋なんだけど。 そんな事か、と軽く笑い飛ばされそうだ。 「初対面の人に話すような事じゃないんですけど… 今住んでるアパートが取り壊しになるらしくって あと1か月で出なくちゃいけなくなって…」 「あらま」 「結構前に言われてたんで、新しい所探してるんですけど いいとこ見つからなくて… そうしたら今度は、高校卒業してから ずっと働いてた工場までリストラされて…」 「まじかっ?」 「まじっすよ、最悪です。今日だって前の職場の 友達が焼き肉おごってくれるって言うから ついついバイクで出かけていけばコレですよ」 柊生はそれを聞いて大声で笑い、スミマセンと 頭を下げた。

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