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9.月と太陽にあずけて

車は あの一台も車の停まっていない駐車場に すべりこんだ。 辺りはすっかり暗くなり、古いアパートの何軒かは 窓から灯りが漏れている。 12部屋ほどのアパートだが、ほとんどの部屋は 引っ越し済みのようで、カーテンもかかっていない。 柊生は車の中から和真の部屋を見上げた。 電気がついていない。 ー 寝てる?まさか出かけてる? 発情期が終わったのか? 柊生はもう一度携帯をかけてみるが、やはり繋がらない。 信頼できる友人の所にでも行ってるのかも。 そうだ、悪い方ばかりに考えていたけれど。 恋人がいても不思議じゃない…。 あれこれ考えて 、このまま帰ろうか?と 家を飛び出した時の勢いは消えていた。 ー いや、とりあえず玄関まで行こう。 いなければそれでいい。 無事なら何でもいいんだ。 柊生は車から降りると、足早に和真の部屋へ向かった。 季節外れの生暖かい風が背中を押した。 ドアの横にある小さな呼び鈴を押す。 壊れているのか鳴った様子がない。もう一度押して ドアに耳を近づけるが、やはり鳴っていない。 柊生は少し強目にドアを叩いた。 「根岸くん、いるかな? 佐倉です!」 声をかけてみるが無反応だ。 ドアの横の小窓に目をやる。ステンレスの格子があり 曇りガラスになっているので、室内の様子は分からない。 でもそこで、あることに気づいた。 真っ暗だと思っていた部屋の中で うっすら灯りがゆれて見えた。 「根岸くん、大丈夫か!?」 やっぱり和真はこの部屋にいる! そう思ったら、この異常な状況に不安が増して 自然に声が大きくなる。 「いますよ」 ドアの向こうから静かな声がした。 「どうした?大丈夫?」 ー いや、何でドア開けないんだ 「大丈夫ですよ」 「携帯繋がらなかったから心配で… か、買い物のついでに 寄ったんだ」 ー ドア越しに何を言い訳してるんだ俺は ガチャ、と音がしてドアがゆっくり開いた。

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