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15.過去と後悔

「はい」 (まだ、お仕事中だった?) 低い声で電話にでると、笑みを含んだ声が 返ってくる。 「いや、大丈夫だよ」 (良かった、お久しぶりね) 「そうか?2週間ぶりくらいか?」 (そうね、クリスマスの事話しておきたくて) 柊生は、面倒な話だな、と身構えた。 (実は友達数人とニュージーランドに行くことに なったのよ) 「へぇ、いいね」 ー なんだ、良かった。俺には関係ない。 そう思ったら、少し声が明るくなってしまう。 (だからクリスマスは会えないの、ごめんなさいね) 「気にするなよ」 (でも、年明けには両家の顔合わせでしょ? 年内もう1度くらい会っておいた方が いいと思うの) ー やっぱり面倒くさい話しになった 柊生は窓際に立って、窓の外の雨を眺めながら うんざりと手で額を覆った。 「杏菜(あんな)前回電話でも少し話したけど この結婚…考え直したいんだ」 (… ) 電話の向こうで杏菜が黙りこむ。 (本気で言ってたの?) 「もちろん、冗談でこんな事言わないよ」 (今さら、ムリに決まってるでしょ?) 「今ならまだなんとかなるよ、でも今決断しないと もう、戻れなくなる」 杏菜が電話の向こうで考えこんでいる。 「どちらにしても俺も1度会って話さなきゃと 思ってたよ、予定確認してまた連絡する」 (分かったわ) そう言って電話は切れた。 窓の外は暗闇でも見えるほど、強い雨がふっている。 防音の窓のため、音はそれほど聞こえない。 暗い、しんと静かな部屋で1人深いため息をついた。 そして和真を1人残して席をたってしまった事が 気になって、あわててリビングに戻った。 「食事中にゴメン」 言いながら戻ると、和真が大丈夫だよと軽く 返してくる。 もう、食事は終わっていて、お茶だけ飲んで 待っていた。 柊生も急いで、続きを食べ始める。 「慌てないで ゆっくり食べなよ」 それを見て和真がクスクス笑う。 「柊生さん せっかち」 そう言って笑ってくれる和真が可愛くて なぜだか涙が出そうになる。 ー 何だ これ? これはどういう感情なんだろう? 可愛いと思って涙が出そうになるなんて こんな事初めてだ。

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