1年の間に俺たちは何度も喧嘩をして 仲直りをした。 喧嘩をする度に、結局 離れられない事を知って 絆はさらに深くなった。 チョーカーも最初こそ躊躇いを感じていた 和真だったけど、今では、ないと不安だと言う。 職場の環境にも恵まれ、Ωという事で不愉快な 扱いを受けた事もないようだ。 むしろ和真が職場の人間と距離が近い気がして ソワソワしている。 特に40半ばのバツイチ子持ちの社長を 和真がやたらと誉めるので、１度派手な喧嘩にまで 発展した…。 でもその喧嘩の仲直りで、和真が“生”を許して くれたのだ！ おそらく今の仕事をして自分に自信がついた事と 俺への信頼、両方がやっと和真の中で繋がったの だろう。 以来俺は、社長の話しも、ちょっとイライラしつつ 普通に聞けるようになった。 「まだ終わらないの？」 「もうちょっとだよ」 「3時には終わるって言ったじゃん」 「うん。終わるって…あ、もう3時なんだ」 ソファーの隣に座って、和真の腰に手を回す。 「今日安全日でしょ…」 「………」 耳許で囁いても、和真はふっと笑っただけで パソコンを叩くのをやめない。 俺は和真の首筋に唇を押し付けた。 「…柊生、もうホントに終わるから待って」 「もう待てないぃ～」 ゆったりしたフーディの中に手を突っ込む。 「あれ？終わったら出掛けようって 言ってなかった？お茶しに行くんでしょ？ それから買い物行くんでしょ？」 「もう、コーヒー飲んだじゃん」 「まぁ、飲んだけど…」 「気が変わった。買い物明日でいい」 問答無用で押し倒して、和真の上に跨がった。 「あ、こら！……ん…ぁ」 ・ ・ 「また仕事してる…」 「だって柊生がちょっかい出すから 終わってないんだよ」 シャワーを浴びて出てきたまま 上半身、裸の肩にバスタオルを頭からかぶって 和真はまたパソコンに向かっていた。 真剣な目で画面を凝視したまま、左の薬指を 親指で触れる。 そうそう、最近は唇を撫でる癖はほとんど 見られなくなった 変わりに、考え事をしているときの和真の癖は これだ。 薬指の指輪を親指でクルクル回す。 その癖が自分に繋がっていることさえも 嬉しくて、じっと見つめてしまう。 俺の視線に気づき、フッと目尻を下げて笑う。 「愛してるよ」 パソコンを見つめたまま和真が言った。 「え！？」 「…って言いたいんでしょ？知ってるよ」 今度は俺の目を見てイタズラっぽく笑って見せた。 「……コノヤロ…」 何でもないやり取りも幸せだ。 特別な事なんて無くても。 病めるときも 健やかなる時も。 ～ 完 ～