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第1話 拾ったのは王子
ラント王国という栄えてる街並みから少し離れた寂れた下町。
レンガで出来た家が連なってる通りに、その日は大雨が降っていて足元が悪く視界が悪くなっていた。
肩に触れるくらいの髪の長さをした黒髪の男は、黒いコートに身を包み傘を差して裏路地を通っていると、表の道から沢山の雨水を弾く足音と何人かの号令を出す叫び声が聞こえきた。
(………何かあったか?)
男は表道の方を見ると、鎧装備をした兵たちが行き交っているのが間から見えた。
王都とはいえ、貴族などが住んでる一角から離れた下町までこれだこけの兵を動員して動かしているのは珍しいかった。
それこそ余程でもない限り下町に兵が行き交う事などあまりない。国家に関わるような事でもない限りないだろう。
男は、訝し気に思いながら後で何かあったかを調べるかと視線を行き先へと向けて裏路地の角を曲がった。
「っ……!」
表通りに気を取られてた男は、足に何かを引っ掛けた。それに少し遅れて小さい呻き声が下方から聞こえて男は視線を下ろす。
ブロンドの髪に一瞬男でも目を奪われ息を飲むだろうか、まだ幼さを残した美少年が道端で横たわっていた。
だが、少年はあちこち擦り切れていて、腕からはケガをしたのか血が出ている。
明らかにそこいらの裏路地に住んでいるような少年ではない、そして表道には兵が沢山行き交っている。
嫌な予感しかしない男は大きくため息をついた。
(これはビンボーくじを引いたな)
かと言って放置する選択肢は男にはなく、少年を担ぎ上げ自分の住う家へと向かった。
※
暖炉から炭が燃えぱちぱちと鳴る音で少年は目が覚めた。まだ意識は朦朧としていて、柔らかくて暖かい肌触りからベッドに寝てたらしい。
おかしい。確か気絶する前は、道端で倒れ雨に濡れた寒さと逃げる為に負った傷が痛くて動けなくなってそのまま意識が途切れたはずだった。
思考がゆっくりと動き出すと同時に身体の左側に重みと自分以外の暖かい体温を感じて一気に少年は覚醒した。間近に知らない黒髪の男が寝ているの気づいて、少年は青い瞳の目を大きく見開いて、掛け布団からベッド頭の方へと飛び起きる。
「なっっ!???……だれ?……え??」
ただでさえ状況が把握できないというのに、起き上がると服を着ていない事に気づいて、更に少年は混乱した。
黒髪の男は、少年に預けていた体重の一部がベッドに沈むと同時に小さく呻った。
まだ頭が混乱してる中、男が起きるかと少年は一瞬震えた。全く知らない人間だ何をされるか分からない……。その動作でちくりっと傷を負った腕が痛み、手で抑えようとすると包帯が巻かれている事に気付いた。よくよく自分自身の全身をみると、あちらこちらと小さな傷や打撲に湿布やら薬を塗ったあとがあった。
どうやらこの黒髪の男は、手当をしてくれたらしい。
それで、頭が少し冷静さを戻す。
少なからずとも悪い人ではないのかもしれない。と少年はそう思っていると、当の本人……黒髪の男はもそり一度身動きしては、ゆっくりと起き上がり長めの黒髪を手でかけ上げては少年の方へと向いた。
年齢は少年よりそこそこ離れてるだろうか、まだ若いが少年よりは明らかに体格はいい、落ち着いていてどこか少し冷めた黒い瞳の眼差しから20代後半に見える。
「……目を覚ましたか……」
男はまだ頭が覚醒しきってないのか、言葉の端がおぼつかない。
「アンタは……?ここは……?……というか服は?……というか……」
少年は男も上半身だけ裸な事に気づいて視線を送る。
男はそれに特に気にもかけずに、近くにあったタバコを取り出すと火をつけて一服口に運んで吸った煙を吐いた。
「道端で倒れてる所を助けた割にはご挨拶だな……アラン王子様?」
男は不適に笑ってみせる。
その言葉に少年は慌て驚いた。
「なんで私の名前を!?」
その瞬間男はクッと押し殺すように笑った。
それで少年は鎌をかけられた事に気付いて、怒りを顔に出すように顔を赤くした。
ワザと?と聞くと男は悪いと言いつつ少しまだおかしそうにしている。
「殆ど状況から推測したに過ぎないがな…。遠目でも王子の姿くらい一度見た事あったから、可能性で言ってみただけだ。」
少年……このラント国の王子。アランは、顔をしかめた。
「それで、お前が誰かは知らないが王子と感づいて居ながらひん剥いた挙句にベッドに添い寝とはいい度胸をしているな……。早く服をよこせ」
ツンと態度を悪くするアランに男は流石にからかい過ぎたと思ったのか、それ以上は何も言わずに棚からシャツを取り出すと渡した。
アランは、少し乱暴に受け取ると男の物であろうシャツに腕を通す。
「俺はダニスだ。悪いが濡れてる上に汚れてたからな、服は捨てた。何があったかは知らないが、王子が兵に追われてるなんてのは、ただ事ではないだろ?代わりに一時しのぎだろうが目立たない様見繕うから少しそれで我慢しろ」
ピクリとその言葉にアランは反応した。
この黒髪の男ダニスは、推測で王子だと思ったとも言った。そして王子であるアランが追われている事も勘づいてる事に少し驚いていた。
本来、王子がこんな所にいて兵士が追いかけているならただの国民の民間人なら兵士に報告するはずだ。理由はともあれ兵士に引き渡して城に帰す事を考えるだろう。貴族なら上へのゴマすりに、民間人なら恩賞を期待するものだ。
だが、ダニスはそれをせずに、追われていると言い切った上で兵士に報告もしていない様子だ。
「いや……私も助けて貰った相手に失礼した。ありがとう……我慢しよう」
突然しおらしくなる王子にダニスは意外そうに見やった。そのままでかい態度でも取ると思ったのかもしれない。失礼な話だが、少し前の自分自身なら助けて貰って当たり前……だと思っていただろう。
ダニスはコーヒーをカップ2つに注ぐと片方をアランに渡した。渡されたコーヒーを、口にしてやっと落ち着いた気がする。
ダニスは、ベットの近くにある机に置いた灰皿にタバコの火を押し付けて消すと椅子に座りコヒーを飲みながらアランの方へ向いた。
「それで……王子様はこれからどうするつもり……」
ダニスが話してる途中で、玄関の戸から激しいノックの音が聞こえた。
アランは突然の事に嫌な予感を巡らせなが驚いて戸の方を見た。
ダニスは、コーヒーカップを机に置くと瞬時に冷めた顔つきになると立ち上がる。
「国兵だ、直ぐに出てこい!」
嫌な予感が的中した。
アランは、真っ青になって固まる。
そんな様子を他所に、ダニスは部屋の引き出しから拳銃を取り出すと、慣れた手つきで弾の確認をした後に背中側のズボンと腰の間に挟む。クローゼットからブラウンの長めのウィッグを取り出すとアランの方へ投げた。
固まってたアランは慌てて受け取ると何だとダニスに視線を送る。
「シャツを脱いで、それを被ってベッドに潜れ、そして何があってもこっちを絶対向くな」
小声でそう指示されるが、アランは急な事に頭がついて行かずに呆けると、少し強めの口調でダニスに速く!と言われ慌ててウィッグ被りベッドへと潜った。
その間にも、激しいノックの音が聞こえる。
「聞こえてますよ。」
ダニスはどこか面倒くさそうな声で玄関の戸を開けた。
アランはそれにごくりと唾を飲み込んだ。今にも心臓が止まりそうだ。
何かようですか?と上半身裸のままダニスは聞き返すと、兵達は驚いたのかその場の空気を読むように、一言謝罪が入る。
「失礼、……金髪に碧眼の16才ぐらいの少年だ。この周辺に見かけたと知らせが入ったのだが知らないか?」
それに対してわざと考える振りをすると、彼の事か??と思い出した様に振る舞うと兵士達は直ぐ様食らいついた。
「それでしたら、先ほど起きるなり直ぐ様行ってしまいましたが…」
「どっちに向かった!?」
「あちらに向かった後角を右に…」
「協力感謝する!」
「いえ、足元が悪いので気をつけて」
兵士達が敬礼した後に、ダニスは扉を閉めようとすると1人の兵士から待ての声が掛かった。
ダニスは、右手を背中にある拳銃を直ぐに取れるように身構える。
一部始終を聞いていたアランは緊張で溜まった唾液をごくりと飲んでは、手足に冷や汗をかいた。
「……どこかで見た事あるか?」
それを聞いてダニスは身構えるのをやめて、ふっと笑った。
「こんな下町に住む私にですか?……気のせいでは?」
兵士はジッとダニスを見たあと、そうだな、とうなづいてはダニスが嘘をついて教えた道を走って行った。
ダニスは玄関の扉を閉めると軽く息を吐くなり鼻で笑った。
「部屋ぐらい調べろよ」
そう呟くと、それでは困る!っとアランが飛び起きる。どうやらウィッグで女に見せかけられた事に今更気付いたアランは怒っているようで、やれやれとダニスは肩を竦めた。
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