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第2話 逃亡の理由
兵士達の訪問から一息付くと、ダニスはクローゼットに掛けていたコートに拳銃を忍ばせる。かと思えば、最低限に簡単に荷造りをし始めた。
アランは兵士の訪問にやっと頭が冷静になってくると、今自分が被ってるウィッグを見て何でこんな物があるのだろうかと疑問に思い始めた。
……あまりにも用意がいい。
そして、民間も拳銃や武器を持っている事はこの国では珍しい事でもないが、手慣れた扱いに兵士が来た時の対応の速さ……いくら王宮育ちのアランから見たとしても、只者ではない。と思わされる。
一体この男ダニスとは、どういう人物なのだろうか?この男に頼ってもいいのだろうかとアランは心の片隅に不安を抱いた。
「……アンタは何者なんだ?」
アランの問いに暫く沈黙して、ダニスは身支度の途中でゆっくりとアランの方へ向いた。
「……さっきのはあくまで一時しのぎだ。また来る可能性が高い。俺は夜明け前にはここを発つ。城の警備からここまで逃げてきた事は褒めるが、この先も逃げるなら一人では厳しいだろう。俺についてくるなら止めはしないが……」
「……が?」
「引き返すなら今だ。……全てを捨てる覚悟があるなら別だがな……」
そう淡々とダニスは言葉にしては、身支度の続きを再開し始めた。
全てを捨てる覚悟とダニス言った。それは多分王子である事、今までの生活全てを捨てられるかを問われたんだろう。
今なら戻れる……?それを聞いたアランは自分の膝を抱えると、さっきまで考えないようにしていた暗い気持ちが湧いてきては、苦しくて泣きたい気持ちを押し殺して苦し紛れに鼻で笑った。
「私の居場所など……もうあの城にはない。王子の肩書がなければただの子どもだ。むしろ迷惑になるのはアンタの方じゃないのか?」
ダニスは身支度を終えたのか、アランの方へとちらりと一度だけ見て、何もなかったように椅子に座ると冷めたコーヒーを飲んでは、何がおかしいのか微かに笑った。
「迷惑ならここに担いで来た時からかけられているが?」
そう一言だけ言葉にした。
なぜだろうか、アランはその言葉を聞いた途端にもう枯れ尽くしてるのではないかと思っていた涙が目蓋に溢れて視界がぼやける。
ダニスのその言葉は、突き放す訳でもなく同情するのでもなく……ただ好きにすればいいと言ってくれたような気がした。初対面のはずなのに、先程の不安さえどうでもいい程に、安堵感を覚えてしまった。
暫く経ってから、ダニスはコートに腕を通すと膝を抱えたまま塞ぎみなアランの頭に一度軽く手を置いては、少し出てる。と一言伝えると玄関から外へ出て行った。
外に出ると雨は止んでいて、ダニスはコートのポケットからタバコ出して火を付ける。
「……思ったより、大事そうだな」
タバコを一口吸っては、兵を避けて裏路地を進んだ。
ダニスが部屋を出た後、アランはベッドにころんと転がるように寝転がった。
ぼうっと質素な家の天井を眺めていると、ハッとするよう起き上がる。
「結局、何者なのか聞けてない!!」
上手い事誤魔化された事に、何とも油断ならないものを感じつつも、脱力するように勢いよくぼすっとまたベッドに全体重を預けた。
とは言え、アランもまだ何で兵に追われているのかを言っていない。そもそもダニスという男は聞いて来なかった。それは、ただ聞かなかったのかそれともアラン自ら言葉にするのを待っていたのか分からない。
信頼していいのかもまだ分からない。
ただ、アランの選択肢は、一つしかなかった。柔らかいベッドの肌触り……暖かいコーヒーと豆の香り……もうこんな感覚は味わえないと思った。
アランが今の境遇になる悲しみと絶望の日、それは今から1週間は経っただろうか……。アランはシーツを強く握り締めて思い出した。
ーーそれは今日みたいな雨が強く降ってる日だった。
夜に寝付けずに少し気分を変えようと寝室出た時だった。何かが倒れガラスが割れる音が王の寝室、アランの父親の部屋からした。
何の騒ぎだと寝室に入るとベッドには腹から血を出して横たわる王が居て、アランは慌てて父親の王のもとに駆けつけた。
「父上…!?……これは一体!?何が……」
現状に混乱しつつも、大きい声で誰か居ないかと叫ぶ。直ぐ様に侍女が駆けつけると、驚きのあまり高い声で叫ぶと、医者をと走っていった。
その間に、王がゲホッと咳ととも血を吐くとアランの手を強く握り締めた。
「アラン……逃げなさい……はや……」
そこで王はまた咳き込み、意識が遠退いたのか握られた手の力が弱まる。
王の言葉に混乱しつつも、部屋の周囲を見ると窓ガラスが割れていた。そこから何者かが入ったのかもしれない。アランは王の手をしっかり握返した。
「私は、大丈夫です!だから強く気を持って…」
王はアランの方を見ると…ふっと優しげに笑うと、それが最後の力とばかりに突然事切れる様に王の手の力が抜けるとアランの手から滑り落ちた。
「父上……??……父上ーー!!???」
アランは王に抱きつき、突然の事に涙を流しながら叫んだ。
その後、侍女が医者を呼んできたが、医者は王の容態を見ては首を横に振った。突然の事に頭が追いつかず呆然としていると、宰相閣下であるガブリエルという男……巨漢のいい小太りの中年の男がその事態を聞きつけてやってきた。
「これは……!!王…….なんて事だ…まさかそんな……」
がくりとその場で膝を付いた。
そこに1人の憲兵が、急ぎ足で入ってくる。
「失礼します!報告します………失礼ながら、王子の部屋にこんな物が…」
憲兵が恐る恐る差し出したのは、刃に血がべっとりと着いた小さなナイフだった。
その場に居たアラン以外が驚愕の表情を浮かべていた。王の死にまだ現実を受け入れられないアランは、ゆっくりと憲兵が差し出したの物を見た。
そんな、まさか、周囲の声がぼんやりと聞こえる。アランには何を言っているのか分からなかった。さっきまで寝ていて、物音に気付いて駆けつけて……。
「信じられんが、証拠があるなら致し方ない…連れて行け」
膝を付いていたはずの宰相ガブリエルは兵士達に指示をした。兵達は、アランを王からひっぺりがして、同行を促される。
「お前達は何を……言っている?……私は王の子だぞ!?……よもや私が手にかけたなどと…」
宰相ガブリエルは首を横に振り、周囲はどこか冷ややかな目を向けてくる。この城にいる者なら誰だろうと、私が王に溺愛されていた事は知っているはずだ。それなのに疑われるというのか?アランは信じられない状況に頭が真っ白になる。
そこで、ふと最後の王の言葉を思い出した。逃げろ。とはこういう事かと……。
その後、抗議も虚しく王子であるアランは王殺害の疑いで牢屋に繋がれた。
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