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第7話 騎士クリス・レブスキー
アラン王子が城から脱走して、中々捕まらない事に苛立った宰相ガブリエルは、執務室で行ったり来たりと落ちがない様子をみせていた。
「ええい!まだ王子は見つからんのか!?」
宰相ガブリエルの野太い大きな声が城内の一室に響いた。
王子が城から脱走して、この街の兵の総力を上げて探し出しているのにも関わらず、まだ見つかっていない。たかが少年1人にここまで時間を割かれるとは思っていなかったガブリエルの表情は険しかった。
そこに、1人の若い青年の声が響く。
兵士のそれも隊長クラスの装いをした青年が、執務室に入り、ガブリエルの前に背筋を伸びして立ち一度軽くお辞儀をする。
「ご安心下さい。出入り口には既に兵を置いてます。そう容易くまずこの城下町から出る事はありません。王子を探し出せるのも時間の問題でしょう」
ブラウンの短い髪に深い緑色の瞳の爽やかな雰囲気をしたまだ若い青年は、宰相ガブリエルにその場に膝をついて報告した。
「絶対に城に戻すのだ」
「ハッ!……このレブスキーの名に置いて、王子を無事に帰還させます」
うむ、期待している。とガブリエルはそう頷いては宰相の椅子へ座った。
それから、青年は立ち上がると部屋の外へと立ち去る。現場へ赴こうと城内の廊下を早歩きで歩き出した。それに数名兵士達が後を着いていくように歩いった。
「……何としてでも見つけ次第保護する。他の隊よりだ!」
青年の一声で、ハッ!と揃った兵の返事が帰ってくる。青年の名は、クリス・レブスキー。若干24歳にして1つの隊を任された騎士、ラント王国を築くのに活躍した代々続く家系の騎士でもあった。
クリスは、今の現状に心中に焦りを感じていた。
(他の隊より早くお見つけせねば……。どうにも、罪状の件に疑問しか残らない。)
1隊を預かる身分のクリスは、王族直属ではないにしろある程度の城の状況も耳にしていた。第一に王が殺された事実に衝撃が走ったのと同時に、違和感を誰も口に出さない事に疑問しか残らなかった。
王子が王を殺したという。
実際に王子の部屋から血の付いたナイフが出てきたらしいが、そもそも第一継承者で溺愛されていた王子に動機がない。また、侍女によれば王の部屋の窓が割れていたと言う。その状況下で第一に疑うのは外からの暗殺のはずが、王子だけに集中している。
しかも、その事を他の者も何一つ抗議しない……これが異常でなければなんだというのか………。
今のまま城に戻ったとしても王子の立場が悪過ぎる事に、クリスは不安を抱いていた。そもそも罪を負ったままの王子をそのまま城に戻せば今後どうなるか分からない。宰相ガブリエルという男を信じるには、今回の王殺害の件に置いて不安要素でしかなかった。
とすれば……どの隊より早く見つけ出し、1度安全な場所に移って貰うしかない。
できれば王子の後ろ盾になってくれる人物か、この状況をひっくり返すような、それこそ王を殺した真犯人を見つけ出す他はないだろう。
とはいえ、現状に置いて王子は大義名分になってしまう。下手をすれば内乱になりかねないのも一つだ。果たして本当に王子に忠誠を尽す人物を探すのも大変だ。
しかし、このまま城に戻る事だけは防いだ方がいいと直感的にクリスは感じていた。
城から出て、仮拠点にして一時的に兵の指示を管理してる場所に移る。もう直ぐ明け方なのもあって他の隊の兵は休憩していた。つまり、今が他より探し出す機会それを逃す手は無かった。
拠点の兵達が集ってる場所に行くと捜索に当たっていた班が帰ってきていた。
「レブスキー隊長、少し気になる事が…」
「気になる事?」
班のリーダーの顔色に焦りが見え、クリスは怪訝な顔で聞き返した。
「はい、実は王子らしき人物を見たという近辺で、ダニス・ハーヴァードを目撃しました。金髪の少年を担いでくのを見たとの近辺の証言から……もしかすると……」
「なんだと!?」
クリスは驚いて目を見開いた。
その名前に驚いたのもあるが、自分が足取りを追っていた社会の闇の人間だった。今まで何度か実際に見つけた事はあったが、その度に上手い事逃げ出されていた。
その人物がもし関わっているとしたら、今後どう対応してくるか分からない。何度も捕縛から切り抜け、街が大きいとはいえ下町などで足取りを掴ませない……とても頭のキレる人物だ。
今日の騒ぎで何か嗅ぎつけているかもしれない、王国の危機と知ればどう出てくるか全く読めない……。
もし本当に王子と一緒に行動しているなら、あの男の目的はなんなのか……。全く見当がつかなかった。
「まだ、確かではないですが……ここまで人員を割いて捜索の手を回しても見つからないのも少し気になります。」
班のリーダーのその言葉にクリスは口元に手を当てて暫く考えた。
もし本当にダニスという人物といるなら先が不安なのも確か。しかし、巧妙に軍兵から逃げ切る力……今現在の王子の状況……。
「……確か連中の中に潜ませた者がいたな……?」
クリスは最初こそ驚いていたが、どこか落ち着いた様子に疑問に思もった反面リーダーが怪訝な顔をして頷いた。
「その者に、直接ダニスと話をする事は可能か連絡はつくか?」
「少しかかりますが連絡は可能ですが……?」
「……極秘で急いで取り次いでくれ。」
班のリーダーは何か気づいたように焦りを見せた。
「まさか……」
「………今後のこの国の未来がかかっているなら、手段を選んでいる場合じゃない!私達だけでも王子の味方に着かなければ……あんまりだ。」
クリスは兵から背を向ける。
班の兵士は頭を軽く下げてからその場から行動へと移った。
この選択がどうなるかは分からない。
なんせ相手はとんだ食わせ者なのだ。
しかし、それよりも王室を守る事が何よりも優先だ。もし有害なら、王子を無理やりにでも連れ出す。
それ以外の選択があるなら……
形に拘ってる場合ではないのかもしれない。
どうか、無事で居てください。
クリスは部下の報告が来るまでそう願った。
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