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第15話 アテと窮地

 クリス・レブスキー……ダニスに変装が完璧なティムがそう呼んで、アランはその名に覚えがあった。  間違いが無ければ、この国の設立に貢献した騎士の家系にあたるレブスキー家で、確か先代は数年前の先の戦で亡くなったと聞いている。何よりアランの父、王が信頼を寄せていた家系だった。先代が亡くなった事により、暫くの間その家系の名前を聞かなくなったが、2年前くらいにその家系の後継者が第二隊長になっという話を聞いた気がする。  その人物が、今1人でここまで足を運んでダニス(ティム)と対峙している。  お互い知り合いと言うには、寧ろ敵対視の目で互いを睨み合っていた。 「……睨み合ってても話は進まないな。1人で会いに来てまで俺にどういう用件だ。王子を城に連れ帰るだけならこんな周りくどい事はしないだろ?」  クリスは、厳しい表情を崩さずに睨みつけるのをやめた。 「あんな分かりやすい誘導の情報を流しておいてよく言う。まぁ、ここに来た理由は確かにアラン様を城にお連れする為に来た訳ではないのは確かだ。」  そう言ってクリスは、騎士にとって大事に腰にかけてある剣を床に置いた。  敵意がない事を証明する為にしたのだろう。しかし、騎士が剣を置く行為は降伏に近い意味を持つ。貴族で名門騎士の隊長がプライドがない訳がない。しかし、クリスという騎士は何の躊躇もなく剣を床に置いた。 「これで少しは信用してもらえるか?できればその薄汚い手から王子を離して貰いたい。」  ダニス(ティム)は、側にいるアランくらいにしか聞こえない声で、へー、と興味深そうにティムらしい反応で呟いた。顎に手を添えて暫く考えると、入り口の扉の方へ向いた。 「だそうですよ。どうしますか?」  ティムの声で発した言葉に、クリスは少しばかり驚いてから扉の方へと向いた。扉が開くと、今度こそ本物のダニスが姿を現した。  早々に影武者なのをバラすティムに呆れたのか、ダニスは入って直ぐにため息を付いた。 「そこから動かずに王子様を離すなよ」 「いやー、さすが騎士ですね。睨みが怖いっすわ」  ティムが顔に何か被っていたのかそれを外すと、本来の天パで気やすそうないつもの顔を晒した。  クリスは、怪訝な顔でダニスの方をみた。 「貴様が普通に一対一で話すとは思えなかったが、なるほどな。」 「当たり前だ。こちらもリスクを背負っている。悪いが王子様にはそこに居てもらう。今の状況で引き渡しても、俺に取ってもこの国にとっても何の得にもならんからな。」 「貴様が、国の事を考えていたとは意外な話だ」  クリスが皮肉な言葉を言った後、ダニスとクリスはまたも、正確にいえば、今度こそ互いを睨み合う。  空気は凍りつき、緊張が走る。  暫くして、クリスの方が息を吐いて、置いた剣を拾って、腰に掛け直した。 「そんな相手に、頼みを持ちかける事になろうとは……」  クリスが刺々しい言葉を発しながらも、敵意を向けるのをやめてため息をついた。ダニスもそれで、冷めた眼差しのいつもらしい表情に戻ると、近場にあった椅子に掛けた。 「……それで、俺に頼みとはなんだ?」 「その様子なら、大体状況は把握しているという認識で間違いはないか?」  ああ、とダニスが頷く。クリスは険しい顔付きになった。 「アラン様を、アクアシティにいらっしゃるファルデル家まで送って貰いたい。」 「ファンデル家?……ジャックの帰省先か?」  クリスはアランの言葉に、はい、と頷いた。  その名を聞いて、アランは今の状況で、自分がどれだけ周りを信じられなくなっていたかを思い知らされた。  ファンデル家は、王、王子など王室の側近、執事の家系だ。ジャックはアランの執事をしていて王が殺害される前に久しぶりの長めの休暇を与え、現在ファンデル家があるアクアシティに帰省していた。  また、王に仕えていたジャックの祖父、イース・ファンデルは王の側近をしていたが、足を悪くしてから今は隠居してアクアシティで暮らしていると聞いている。  そうだ、ジャックが帰省していなければ、まずアランの部屋から血のついたナイフが出てきたなどあり得ない。仮に出てきたとしても、ジャックは執事だが、その家系だけに発言力には力もある。  殺害したタイミングが計画的で、未だなお兵の捜索の数が減らずにアランをはやく城に連れ戻したいのは、帰省が終わる迄に事を運びたいから……か。 「なるほどな…。確かにファンデル家がバックにつけば、城の状況も王室派と宰相派で割れるくらいにはなるだろうな。」  クリスの提示にダニスは興味深そうに聞いていた。  そこで、ティムとアランが座ってるソファーの後ろの壁から、クリスが入ってくる直前の様にコンコンとノックする音が聞こえた。  ティムのいつもの軽々しい表情が一瞬でひきしまった顔つきになる。今度のノックの音は長く時折間を空けて刻んで音がなった。  ティムがハッと何か感づいた様子で、ダニス達に声を荒げた。 「ダニスさん、速くこっちに!!兵が来ます!!」 「なに!?」  クリスとダニスが同時に驚きティムを見た。  その瞬間、扉から兵数名バタバタと勢いよく入って来た。 「ダニス・ハーヴァート、クリス・レブスキーを捕縛し、アラン王子を保護しろ!!」  兵の陣頭を取っていた兵士が声を上げた。  あっという間に、ソファーを壁にした方向以外に兵に囲まれる。アランは、この状況に冷や汗をかく、これはもう逃げるのは無理かと。  ダニスは、舌打ちをした後に兵達の方を向きながら珍しく声を荒げてティムに叫んだ。 「ティム!お前はアランを連れて逃げろ。そして、追ってる案件は絶対掴め!!」  ティムが何か声を発そうとする前に、ダニスは後ろにある本棚の一部の本を勢いよく叩いた。  本は、ダニスが叩いた所だけ押し込まれると、それと連動する様に壁に沿って置いてあったティムとアランが座ってるソファーが壁と一緒にくるり回りだす。 「ダニス!?」  ダニスの後ろ姿に声を掛けるが、回転した仕掛けで壁は塞がるとダニス達の姿も見えなくなった。突然の事に戸惑っていると、ティムに腕を掴まれる。 「逃げますよ!!」 「でも2人は!?」  ティムに引っ張られ走り出した。  壁の向こうは、裏側にあった家の中らしい。周囲には何人かのダニスの部下が居て、こっちに速くと声を掛けられる。 「ダニスさんに頼まれたんだ!何が何でもアンタを逃す!!大丈夫。あの人はそう簡単に捕まらない!」  ティムはそう言いきりながら後ろを振り向かずアランの腕を引っ張りながら走っているが、その顔にはどこか焦りが見えた。  いくら何でもあそこまで囲まれていれば逃げるの難しいはずだ。でも、ここでアランが捕まれば今まで匿ってくれていた事が無駄になる。  アランは、2人を心配しながらも、ティムについて行った。 「くそっ!王子の方を追え!」  兵を率いていた兵士が周りに指示を出し、兵の数が減る。しかし、まだ囲まれている状況には何の変わりも無かった。 「その扉はまだ開くのか?」  クリスは、冷静な面持ちでダニスに声を掛ける。 「いや、1度きりしか使えない様にしてある。」  それに、ダニスも特に焦る様子もなく返答すると、クリスは腰に掛けていた剣をゆっくり抜いた。  それに兵がワザめく。城に仕えるそれも隊長の座に居る人物が、同じ国兵に剣を向けるのだ、当たり前の反応だった。  ダニスもコートの内ポケットから銃を出した。 「いいのか?俺を捕まえれば、疑いも晴れたはずだが?」 「笑わせるな。ここに来た時点で覚悟は決めている。それに、私は王室のみに忠誠を誓ったレブスキー家の騎士だ。アラン様に害なすなら、誰が相手あろうともそれから守るのが私の役目!」  そう言い切ると、囲んでる兵士向かってクリスは剣を振り下ろした。動揺を隠せない兵士達は剣を交えたが受けきれずに飛ばされ壁へとぶつかると意識を落としたのか起き上がって来ない。  クリスの威圧のある剣に周りの兵が尻込んだ。 「とんだ損な役目だな」  尻込んだ兵の様子を見逃さずに、ダニスは銃を撃ち放つ。玉は足に当たり目の前に居た兵士2人は崩れ落ちて呻き声を上げた。 「貴様に理解される必要ない!」  ダニスとクリスは、言い合いつつ目の前の兵士を倒していく。指揮を取っていた兵士から焦燥の色が見えた。 「た、たかが2人に、何をしている!捕まえろ!」 「私を捕まえたければ、殺す気で来い!」  周辺の兵達を殆ど倒すと、クリスは指揮を取っている兵に詰め寄ると剣を寸止めで首元に当てた。  クリスの威圧的な眼差しに、ひぃっ!と兵士が声を上げた。 「アラン様に送った兵を今すぐ引き上げさせろ!」 「それは、私でも無理だ。全体を指揮してるのは宰相閣下だ。アンタを見張れと言ったのもそうだが、残念だが直ぐにアラン様も保護されるだろう。手引きしているのは兵だけじゃない」  それを聞い後すぐに、ダニスが兵士の後頭部を銃の持ち手で殴り気絶させた。クリスに、おい!と怒られるが、ダニス平然としている。 「……なるほど。どうやら俺は宰相を舐めていたようだ。急ぐぞ」 「ああ、………あと、貴様はアラン様に敬称を使え!!」  ダニス達は、周辺の兵の追ってるから逃げつつもアランが逃げた方へ向かおうと走っていった。

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