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第28話 ファンデル家

 アクアシティに向けて、朝から平原を引き続き馬を走らせて向かっていた。奇妙な程に、順調に進めてる事と追手がない事に気持ち悪さをアランは覚えていた。  あれ程までに、兵を動員して探させていたというのに、ここまで何もないとは逆に怖い。  平原の為辺りには隠れるような場所はなく、追手が来れば直ぐに分かるくらい遠くまで見渡せるのに、都市から出てから追手に一回すら出会っていなかった。 「追手が来ないのが奇妙だな」  同じ事を思っていたのか、ダニスが怪訝な顔で口にした。クリスもそう思ってるらしく、頷く。 「あそこまで兵を割いておいて……嫌な予感がする。先へ急いだ方がいいみたいだ」  一同、同じ気持ちらしく少し馬を速く走らせていった。 中継した町から、また長いこと馬を走らせ夕日が落ちかけた夕方になる頃に、目的地の街並みが見えてきた。  フードを被ったまま、今日はクリスの後ろに騎乗してきたアランは、街を一望できたアクアシティのその美しさに目を輝かせた。  本来なら青く見える海は、夕日の色を映し海岸の方から白い建物が並んで、また夕日の色を鮮やかに映していた。街のあちこちに水路があり小舟で移動する手段が多く見える。  まさかに、アクアシティと名がつくだけある。 「何度見てもこの景色は感嘆を覚えます」 「そうだな!」  驚きと感動しているアランの様子に、クリスは目を細めて微笑んだ。王子のアランは視察に出る事もあったが、アクアシティには訪れた事がなかった。だから海を見るのも街並みを見るのも初めてだった。  子どもみたいに浮かれてしまった事に、恥ずかしさを覚えつつ、こればかりは許して欲しい。外に出る機会が少ないアランにとっては貴重な経験だ。 「ファンデル家の屋敷は知っているのか?」 「何度か王都の騎士団とこちらの兵団とで演習を行っていたお陰で存じている」  少し光景に名残惜しさを覚えつつも、クリスが馬の手綱を引たのと同時に視線を先へと向けた。  クリスに先導されて着いた先は、海沿いより少し離れた場所にある白い建物とは違う王都にある同じ様な煉瓦造りの大きな屋敷が見えてきた。  屋敷の入り口には、兵が立っていたが王都とは別の兵服だった。クリスは何事もなく馬に騎乗したまま入り口へと近付き、フードを取った。  兵は一目で反応して驚いた顔をしていた。 「あなたは!? ……失礼ですが、どの様なご用件でしょうか?」 「突然ですまない。イース・ファンデル様にお取り次ぎを……"翼はもがれ、その身は闇へ"とお伝えして頂ければお分かり頂けるかと」  兵は、ハッ!と敬礼すると屋敷の中へと向かって行った。 「顔パスとは流石だな」  ダニスが関心した様に言うと、クリスは頭を横へ振った。  クリスが先程、王都騎士団とこちらの兵団との演習があったと言っていたから、その時に顔を覚えられていたのだろう。クリスは、別に大した事ではないと言いたげだったが、こんなにすなりと兵が取り次ぎをしてくれたのは、クリスのお陰だろう。  暫くすると、兵が戻ってくると中へどうぞと、指示が入り屋敷の中へと入った。  中へ入るとエントランスに、濃い目のブラウンの髪をオールバックにし、キリッとした目に眼鏡を掛けたいかにも厳粛な見た目をした執事姿の男が立っていた。年齢は28歳の、細身の長身だ。  男はこちらを見ると綺麗に一礼する。  アランは、その姿を見た瞬間思わず駆け寄り、その執事に抱きつき被っていたフードが外れる。 「ジャック!!」  抱きつかれた執事は、一瞬驚いた顔を見せたが直ぐにアランだと気づいて受け止めると、少し目尻を下げ目を細めた。  アランを離して、ジャックはクリスのダニスに向かい綺麗に一礼する。 「アラン王子ご無事で何よりです。それから、レブスキー様と……失礼ですがそちらの方は?」 「ダニス・ハーヴァートだ」  ジャックがダニス視点を誘導すると、ダニスは軽く頭を下げて答えた。  そんな礼節をするダニスに珍しく思ってたアランだが、ジャックがダニスの名を聞いてピクリと少しだけ目を細めた。でも、直ぐにいつも通りの厳粛そうな顔に戻った。 「失礼、私はアラン王子の執事をしているジャック・ファンデルと申します。レブスキー様の伝言で大方の事は察しました。ここまで王子をお送り頂きありがとうございます。着いて早々でございますが、イース・ファンデルより詳細を聞きたいとの事で、お付き合いよろしいでしょうか?」 「勿論です」  クリスが、答えるとダニスも頷く。  それで、ジャックが先頭に立ち中へと案内をしていく。当たり前だか、王室の執事や側近を出してきたファンデル家だけあって、屋敷の中は広々としている。少し奥へと案内された先の応接間だろう部屋へと案内される。  ドア開けて入り口横からに立ち、どうぞ中へジャックが誘導する姿は、洗礼された執事そのものだ。実家に帰省したのに変わらずこの様子なのだろうか?とアランは少し不思議に思いつつ部屋へと入った。続いてクリスとダニスが入る。 「お待ちしておりました。王子殿はお久しゅうございますなぁ」  部屋のテーブルとソファーを挟んだ先に、老齢の物腰の柔らかい笑顔でで迎えたのは、ここの主人イース・ファンデルだ。  王の側近だったイースは、足を痛め引退したのを聞いていた為もありアランは驚かなかったが、車椅子に座っていた。この老齢のイースも現役の時に、昔から優しくしてもらった事がある。  アランは自然と笑みを浮かべた。 「お久しぶりです。元気そうで何よりです」 「足は悪くなりましたが、この通りです。……しかし、面白い方々を連れてきたものですな。アラン王子。レブスキー家の跡取りと……そこの貴方は表社会の人間ではありませんな?」  そう言ってイースは、クリスとダニスに目をみやった。ダニスに視線が止まる。闇社会のリーダーである彼の名はそんなに知られているのだろうか?先程の、ジャックも反応していた。  ダニスはいつもと違い綺麗な所作で会釈した。  貴族階級のような所作を思わせるその所作に、アランはどことなく違和感を覚えたが、2人のやりとりの様子を伺った。 「ダニス・ハーヴァートだ。一目で見分ける観察眼に恐れ入る」 「なに、王都の情報はなるべく入れているだけということよ、ほほほ」 「さて、事の成り行きを詳しくお聞かせください」  イース・ファンデルは、物腰柔らかく笑った後、目を細めて来訪した3人に問うた。  それに、アランは頷き王の殺害の件、アランの立場の現状、宰相閣下ガブリエルの態度と行動について、順に話って行った。  イース・ファンデルに事の仔細を話すと、暫く場が静まり帰った。 「やはり、王は亡くなられたのですね」  王の側近として長く仕えていたイースは、思う所があるのだろう。少しの間感傷に浸るように目を暫く閉じた。  それも束の間、切り替える様にアランに向き直った。 「……お辛い中、よくここまでたどり着いて下さいました。この老ぼれにできる事なら、アラン様のこれからの後押しはお任せ下さい」 「ああ、よろしく頼む」 「今日はお疲れでしょう。部屋を用意させてます、ゆっくり休んで今後の話は明日にしましょうかな」  アランはそれに頷くと、ジェイクがアランを先に部屋へと案内する為に促す。応接間を出る前に、部屋の中を再度視線を戻すと、ダニスがイースに話しかけていた。  何が用があるのだろうか?と首を傾げながらジェイクの案内について行った。  クリスは、他の侍女に案内されて別の部屋と向う様子だ。  部屋に案内された場所は、客室なのだろう。それでも流石王家に使えるファンデル家だけあって、内装は華美過ぎずされどシンプルながら装飾が匠で豪華な部屋だとわかった。部屋にあるソファに腰掛けると、ジャックに紅茶を出され、一息付く様に口に運んだ。  ジャックの入れてくれる紅茶なんてもう飲めないのではないかと思ってたアランは、不思議なくらい久しぶりに感じて、心底安堵してしまったのか涙が出そうなのを堪えた。 「ジャックの淹れてくれる紅茶はやはり1番美味しいなぁ」  思わず言葉にすると、ジャックはその厳粛そうな見た目とは裏腹に、目を細めて微かに微笑んだ。 「それは何よりです」  アランは紅茶の香りを楽しんでいると、ジャックが突然頭をきれいな所作で下げてきた。  アランはどうしたんだと目を見開いて瞬かせた。 「お辛い時に帰省していたとはいえ、側にいれずにすみませんでした」 「ジャックが謝る必要なんてないだろ?まさかこんな事になるとは誰も予想できない」 「しかし……」 「私は今こうやって無事に生きている。そして幸いにも味方になってくれる人間がいる。私はそれだけで凄く有難いと思っているだ……」  アランが少しだけ、今までの道中の事を思って改めて手助けしてくれた人達に感謝を感じていた。  1人では、こうやってまたジャックに会うのも難しかっただろう。  そう言葉にしで、ジャックの眉間には少し皺が寄っている。普段は凛として涼しい顔をしているが、アランはジャックにの性格が真面目なのを知っていた。  とはいえ、執事であるジャックはそれ以上謝意を言葉にする事はなく、頷いて了承した。 「わかりました。それでは、お疲れではありませんか?お湯を用意させてますので、湯浴みなどいかがでしょう?」 「……そうだな。後でゆむっくり湯に浸かろう。少し考え事をしたい。1人にしてくれるか?」  そう言葉にすれば、分かりました。と軽く頭を下げてからジャックは部屋から退室した。  ジャックが退室したのを見届けてから、アランは紅茶を一口飲んでから息を大きく吐いた。その瞬間、まるで張っていた緊張が切れるようにアランの通常の顔から赤みが刺した。身体中に火照りを感じて額に少しだけ汗ばむ。  気を抜いてこうなった理由に、アランは少しだけ心当たりがあった。でも、このファンデル家にいて、ジャックもいて、その心当たりを知られたくはなかった。  ジャックが余計、気にやむだろう。 「湯に浸かれば少しはマシになればいいんだけど……」  アランは、立ち上がるとバスルームの方へと向かった。着替え既に用意され、バスタブには既に適温の温度と城から逃げてきた道中の疲れを少しでも癒そうと、アロマの香りがした。  さすがアランの王子の執事だけあって抜かりはない。まるで、ここまで着く間の事が嘘のようだとなんだか可笑しく思えてアランは苦笑した。  アランは脱衣して、肩までゆっくりと浸かり、大きめのバスタブの作りのお陰で足をゆったりと伸ばして、バスタブの端に体を預けた。 「こんな風にゆっくりできるのはいつぶりだろうか……」  実際さしてまだ時はたっていない。  あまりにも色々な事が起き過ぎて、長く感じたのかもしれない。今までの事が嘘だったら良かったのに、と思う反面火照ったアラン自身の体がそれを確実に否定してくる。  実は、ファンデル家に向かう道中も時々こうやって体が火照っていたが、我慢していた。体の奥からムズムズと感じたり、下腹部の自身が熱くなったりする事があった。  多分、大量に飲まされた媚薬がまだ抜けきってないのか、後遺症なのかもしれない。ダニスに中和剤を打ってくれなかったら、もっと酷かったのだろうか?  本当にバカな事をしたんだなと……と身をもって感じていた。  アロマの香りと気持ち湯加減に少し落ち着いてきたからか、段々と眠気が来るこのまま寝る分にはいかないと思いつつ重たくなった瞼は目を閉じて、気づけば意識を手放した。

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