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第27話 悪夢
赤い……
熱くて赤い……
ただ熱くて紅かった。
目の前の視界には、炎が広がっていた。
兵や周りの者達が必死に消化活動をしてる中、ただ目の前に広がる光景に、己は膝崩して見ている事しか出来なかった。
自分となんとか無事に出てきた侍女1人以外、自分の家族はその炎の中に取り残されていた。侍女が言うには、何者かに襲撃された後屋敷に火を放ったらしい。
そうだろう。あの父が、自分の家族達が執事が火事になった程度で取り残されるなんて事あるはずがない。
「……っが……」
目からは自然とボロボロと涙がこぼれ落ちいく。
あまりにも突然の事に、頭は追いつかなく呆然としながらぼそりと呟いた。
「……だれが!!??」
こんな事をー……
そんなのは、分からなかった。
何故なら、そういう家系で業を背負った王家に仕える一族だからだ。怨まれる事の方が多い。犯人なんてその時思いだ当たる所もなかった。
1人だけ残されて、残酷な現実に到底まだ若かった自分は目の前の光景を受け入れるなんて出来ずに、感情のまま激しく地面に両手を打ちつけて叫んだ。
過去にも今でもこの時ほど感情が激しく表に出た事はない。
「うわぁああああ!!!!」
ダニスは、ハッと息を荒げて目を覚ました。汗をかいたのか全身ぐっしょりとして気持ち悪かった。
ゆっくりと深呼吸をして息を整える。いつもみる悪夢だ。自分の復讐の理由そのもの、現実に起こった過去だった。
ダニスは、ゆっくりベッドから起き上がり横のベッドで無謀にすやすやと寝ているアランを視界と止めると、起こさないようゆっくりと立ち上がり、タバコとマッチを握ると部屋の外へ出る。
宿の外には、クリスが追手の見張り番している所、ダニスは足を運んだ。
「交代はまだ先だったはずだろう?」
足音で気づいたのか、クリスはこちらが声を掛ける前に言葉にした。
「……悪いな。寝れそうにない。……交代してくれ」
らしくない言い方に変に思ったのか怪訝な顔をしてクリスはダニスに向く。顔色を見てそれで悟ったのか、クリスは頷いて部屋の方へと向かった。
数歩ほど歩いてから、クリスは立ち止まる。
「お前は、本当にあの……いや、なんでもない」
クリスは、言うのやめて首を振って、再度部屋へ向かう。
ダニスは、特に気にせずタバコに火を付け数と、ゆっくりと宿の外にある階段に腰を落とした。
クリスが言いたい事は分かっていた。
自分が生き残りというなら、継承者であるはずの"レニウス・オルブライト"ではないのか?、そう言いたかったのだろう。
その答えは、正解であり、ハズレだ。
その意味を答えるのは、今この時ではないだろう。
いずれは、アランにも自分の正体について言う時が来るだろう。だが、それは今である必要はない。
タバコを吸って落ち着きながら、夜の風で頭を冷静にしていく。
家族が殺されたその日、たまたま一人だけ用事があり外出していた。本来ならその日、ダニスが外に出る予定はなかった。急遽予定が変わり外出から、夜に屋敷へと戻ったら既に目の前には、炎で辺りを覆い尽くしていた。
現実を受け入れられなかった当時のダニスは、侍女に引っ張られ安全な場所に避難した。
ー生き残りが存在するー
それを悟らせない為に、まともに葬儀もできないまま、隠れ生きる事にした。その時暫くの間、ショックのあまりどうやって生きていたのか覚えてない。
漸く立ち直る頃には、王のはからいで立てられた墓を前に唯一残っているペンダントを手に復讐を誓った。
その後、悟られない為に名前を変え、その地位も権力も、全て捨てた。
継承権を引き継いでたとはいえ、表に出なければ意味はない。腕にある紋章の刺青もまた飾りでしかないのと同じだった。
全てを捨てたダニスは、生き残りの侍女を新しい職に就かせた後、情報の集まる闇社会へと身を置く事にした。
幸い、後継だったお陰で闇社会の情報は詳しく、また自分がオルブライト家の人間ある事を闇社会の住人も知らなかったのが幸いだった。
そうやって、着々と狡猾に生き残り続けたら、いつの間に頭になっていた。ただ必死に復讐する為だけに生きてきたというのに、可笑しなものだ。
そして、頭になって漸く当時の暗躍していた相手の検討がついた。
闇社会で、こちらのルールとは関係なくやり取りされていた裏取引が頻繁に起こっているのが分かった。特に貴族階級、よくある話だがそれが巧妙に隠されつつも、一点に集まっていた。
その先が、宰相ガブリエルだ。
貴族間の裏取引など度が過ぎる場合取り締まるのが、オルブライト気の仕事の一部だった。見張りの家系が途絶えた事により、一層増えたのだろう。
父が死んで誰が1番得をしたか……目に見えて分かった。
そして、何年もかけてやっと実際に犯行をした者を見つけた際、命令した人物の特定は出来たものの、犯行者は自殺した事により、オルブライト家への証言がなくなってしまった。
悔しかったが、では、どうやってあのガブリエルに復讐をするかと考えて過ごしていたある日に
そう、雨の降るあの日に、路地で王子アランにで再び会った。
そこで一度難し顔になっていたダニスは肩の力を抜いて、タバコの煙をゆっくりと吐いた。
もう会う事はないと思っていた。
アランを思い出しては、フッと息を吐いて笑みが溢れる。
「今も昔も、変わらないな……」
こんな間柄になるとは思ってもいなかった。
それが、どんなに愚かなのか自分が1番理解ていた。相手が王子である事も、この先の国の未来の重い担い手である事も。
足音がして、振り返ればそこにはアランがいた。
「やっぱり寝れないのか?」
心配そうな顔をしてダニスの様子を見てきた大きい瞳は、少し眠たそうにしている。気をつけて部屋を出たつもりだが、どうやら起きてしまったらしい。
「なに、いつもの事だ」
間違ってはない。家族を亡くした時からずっとほぼ見ている。何故か人肌があれば見なかったり、マシになる事が多かったから、居場所を点々としてる時は管轄の娼館で娼婦を買ってはその場凌ぎをしていた。
アランに出会ってからは、不思議と深く寝れる様になったのは、少し不思議だった。
アランは、ダニスの隣に腰を掛ける。
「明日も早いぞ。寝なくていいのか?」
「もう少ししたら戻る」
そう言ってアランは肩を寄せ、ダニスの左側へと頭を寄せ寄りかかる。少しうっつらうっつらとしてる様子に、部屋に戻ればいいものをと思いつつも、寄りかかられた部分の温かさに特に言わなかった。
特に何も喋らずにタバコを救っていると、寄せられてる体の重みが増してアランを見て見れば、微かに息を立てて眠っていた。
「風邪を引くぞ」
寝ぼけ声のまま、このままで良い、と言うアランに息を吐いた。自分のコートをアランの肩に掛ける。
こうやって居られるのも、限られているだろう。
左側にあるその温かさを少し惜しいと思ってしまう自分自身に嘲笑するように微かにダニスは笑った。
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