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第26話 都市からの脱出
少しだけゆっくりした後、その日アランは呼び出されて応接室らしい部屋に行った。
先に入っていたのは、ダニス、クリス、ボーンにその他ダニスの部下数名が、机を中心にソファーに座ったり、立ったりしていた。ダニスと視線が合うと少しどう反応していい分からずに思わず視線を反らす。何か話合いが行われそうだとアランは思い、少しだけ顔を引き締めた。
クリスに勧められてソファーへと促される。クリスは、騎士の習慣なのか護衛の様にアラン直ぐ側に立っていた。
ダニスが吸っていたタバコを灰皿に押し付ける。それが合図の様にダニスの方へ皆が注視する。
アランもクリスもその場に合わせた。
「これで、全員集まったな。これからの話だが、クリスはどうするつもりだ?」
「予定通り、アラン様を保護した後、アクアシティに向かおうかと思っている。まずは、後押ししてもらえる存在と体制を整える場所が必要だ」
クリスの意見に、その通りだな、とダニスも頷いた。
異論はないかと、アランの方に視線が向いて、頷いた。特に異論はない。ダニスの力を借りれたとしても、公に力になってくれる存在は必要だ。
「となると、どうやってこの都市から抜けるかだな」
「私なら、アラン様を抜け出した時点で正門などに厳重な兵を置く事になるだろう、正門から都市を抜けるのは難しいはず……」
クリスが難しい顔をして腕を組んだ。
それもそのはずだ。この王城がある中心都市は、城から下町までを高い壁で覆い、敵からの防衛に重きを置かれた作りになっている。
正門には、許可証がないと入れないように管理されていた。そこに、今回王子が城から逃亡した事により。更に厳重なチェックが入るようになっているはすだ。
「ダニス、お前の意見は?」
「アクアシティまで行くなら、それ相応の距離になる。地下を使って出れなくもないが、最低でも馬と行きだけの旅の準備は必要だろう」
「やはり、正門をどうにかして抜けるしかないか……」
思案顔をクリスはしていると、ダニスが不敵に微かに笑う。
「つまり正門の兵のチェックを欺けば良い訳だな」
「簡単に言うが、私や王子は顔割れしている。出る時必ず顔を見せるチェックはある。変装態度で誤魔化せるとは思えない」
簡単にできる事のように言うダニスに、クリスは指摘する。
クリスの意見はもっともだ。捜索の任が出てる以上、クリスと王子は城や兵には顔を覚えているはずだ。特に正門のチェックは手厳しいと聞いた事があった。
しかし、ダニスは鼻で笑って一蹴した。
「俺達を誰だと思っている?入り口付近まで気づかれないようにするだけで十分だ。そもそも兵のチェックを受けなければいいだけの話だ。ここは俺達に任せろ」
「……確実に出れるのか?」
クリスの質問に対して揚々綽々とダニスは答えた。
「意表をつくのが得意なのは、誰よりも知っているだろう?」
クリスは何かを思い出したのか、顔を顰めてから息を吐いた。了承したと、クリスは頷く。
アランは、特に不満はない。やり方は気になるが、まずはこの状況から脱出するなら手段は選んでる場合ではないのも確かだった。
アランもまた頷いた。
「決定だな」
ダニスのやり方に合わせるの決まった瞬間、ダニスがボーンに話かけ、控えていた部下数名に物資の調達などを指示していた。
わかりやした。とボーン、以外数名は返事をすると早々に部屋から退出した。
さて、あの正門をどうやって抜けるのだろうか?と少し気になったが、ここで言わない時点で合法ではないのだろう。クリスがいる手前、あからさまに手の内を見せる事は避けてるのかもしれない。
ここは、詳しい方に任せる方がいい事もあるとアランは思っていた。
そう完全に任せてしまったのが、悪かったのかもしれない。
都市から脱出するを決行するその日になり、クリスとアランは商人の荷馬車を装い、変装は特にせずローブを頭から被っただけの状態で正門の兵の厳重なチェックに普通に並んでいた。
いや、流石にこのままでは普通にバレてしまう。
アランは、手に汗をかいた。
荷馬車の馬は2頭、中は流石に荷馬車を装うだけは怪しまれるので、それなりに色々な物が入っている。その中に直ぐに手に出来る様にクリスは剣の武器を隠していた。
クリスもまた、ダニスの指示に不安を抱いているのか眉間に皺が出来ていた。
「これでどうやって欺くんだ?ダニスは一発で分かる合図を送ると言っていたが……」
「わかりませんが……最悪、私が道を作ります。その際は、先に馬で向かってください」
アランの疑問に、クリスはそう言った少し身構えてる様子だった。
ダニスから、特に説明を受けていない。
ただ、合図があれば、荷馬車と馬を切り離して正門を駆け抜けろとだけ言われている。合図が何なのかは、教えられていない。
そうこうしてる内に、兵のチェックの順番近づいてくる。その度に、アランは心の内で焦り出していた。
「……まだなのか」
ボソリとクリスが口にする。
見た目には出さないようにしてるが、クリスもまた内心焦りを感じて居るんだろう。
1人、1人、前にいる人達のチェックが終わって行く。
遂には、アラン達の番にまで回ってきた。
「おい、ローブを取れ」
兵士からそう声を掛けられ、アランは冷や汗をかいた。
はやく、と催促させれる。このままローブを外す訳にはいかない。クリスが、荷馬車から剣を取り出したその時。
ドカカァアーン!!と派手な音が辺り一体にかなり大きく響き、その辺りに居た全員が、音のなった方へ振り向く。
建物からの爆発だった。人の叫び声が上がり、兵達は慌てて爆発した方へと走って行く。
そこで、ハッとした。まさか……
「アラン様!!」
クリスは、剣を抜くと、荷馬車と馬を繋いでいるロープを断ち切った。
クリスの呼び声で、アランは爆発から意識を反らすと切り離された馬の片方に乗り勢いよく駆け出す。
それに気づいた残りの数名の兵が、遅れて気付て反応して追いかけようとしてくるのを、クリスは剣で遮ってから残りの馬に乗り全力で駆け出した。
「くそ、待て!!」
そう叫ぶ兵の反応は遅く、正門から馬は遠かった。
アランは、必死に正門を抜け出した後の合流地点まで馬で駆ける。
まさか、……あれが合図なんて誰が思うだろうか!?
爆発させるなんて思わないだろう!?
そう心の内で叫んでる中、途中でクリスが後から追いついた。
「このまま行きます」
クリスの顔は、冷静な声色だったがヒシヒシと怒りを感じた。
国を民間を守る騎士のクリスからすれば、当たり前の反応だと思った。正門を出るためといえ、街中で爆発が起こり関係ない人にまで被害が出てるかもしれない。それを、クリスが許す訳がないだろう。
流石にやりすぎては……と思いつつも、確かに兵士の意識を反らすには効果的だった。
暫く馬で駆け出した後、追っ手が来てない事を確認して最初に決めていた合流地点に辿り着いていた。
合流地点は、都市から出て近くの森の中にある水場だった。そこで一旦馬から降りて一度休憩する。
ダニスまだ到着していない様だった。
「ダニスは無事に出られただろうか?」
都市の方へアランは視線を送る。
「あの男は、そう簡単に捕まりません。不本意ではありますが、そこについては何も心配する事はありませんよ」
クリスが重いため息を吐き、どこか忌々しい様に刺々しく言葉にした。
先程の事もあるのだろう。
クリスの眉間に力強く寄っていた。
「……毛嫌いしてる割には、認めてるんだな」
一見嫌ってる様にも聞こえる声の割には、相手を認めるクリスの言い方が少しだけ可笑しくて、アランはくすくすと笑った。
クリスは、心底心外そうに驚いく。
「なっ!……逃げ足だけはです。もっと頭もまともな事に使えば……」
「"まとも"ね……」
背後から声が聞こえて振り返れば、腕を組むながら木に体を預けて立っているダニスがいた。
いつの間に……と言いたいが、どこもケガもなくいつも通りのダニスがそこ居た。
「無事に都市から抜けれたんだな」
安心した顔を浮かべると、苦笑混じりにダニスは息を吐く。
クリスは、ダニスが現れてからじっと睨みつけていた。きっとさっきの爆発について言及したいのだろう。
「そう睨むな。ケガ人も被害も特に出ていない様にしたから安心しろ。被害を被ったのは、近場にあった俺の隠れ家だ」
「信用ならない」
ダニスの言葉に、クリスは両断する。ダニスは、もう好きにしてくれ、とばかりに頭を振った。
アランは、このままでは埒があかないと、2人の間に入る。
「とりあえず、合流できた事だし速く中継の町まで行こう」
それで、クリスは納得して無いまでも睨むのをやめて、馬の方へと向かった。
アランは、胸を撫で下ろす。
アランも馬に乗り、馬を引き連れて居なかったダニスは、アランの後へと乗った。それに、アランは少し驚いてしまった。馬は2頭しかないのだから当たり前なのに、不意にドキリと鼓動が跳ねた。
アランはダニスの方へ向く。
「どうした?手綱を持とうか?」
「いや、大丈夫だけど」
馬術は、子どもの頃から教わってるので問題ない。最近、ダニスに近づかれると自分がやたら過剰に反応する気がする。アランは、頭を振って気持ちを切り替えてようする間に、またクリスがダニスにジト目で睨んでいる。
本来なら、王子の後ろに乗るなんてないだろうけど、今はそんな事を気にしてる場合でもない。ダニスは特にクリスからの視線に気にしてない様子だった。
旅の間この2人の空気が大丈夫かと息を吐きながら、アクアシティまで向かう先へ馬を駆けようと脚で馬に合図を送った。
「2人とも行こう」
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