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Like It Christmas②

年末最後のバイトが終わってうちに帰ると、カホが走ってきて足にギュッと抱きついた。 「ハジメちゃんハジメちゃん、見て見て!」 保育園のスモックを着たまま俺をリビングに引っ張っていく。 そしたら、あるはずのないものがあった。 処分したはずの電子ピアノが。 いや、前のヤツとは違う。まず、一回りデカい。鍵盤が全部揃っている。ボタンやジャックの位置も違う。でもメーカーは一緒みたいだ。 「なに、これ」 ピアノの横に立つユウジに聞けば、「買った」と答えた。 「え、なんで」 「あのさ、ここのところずっとお前と演ってなかっただろ」 「うん」 ユウジは少しはにかみながら笑う。 「俺が、我慢出来なかった」 なんかこう、腹の底から何かがぐわっと湧き上がるような、頭の中でぶわっと花開くような感覚がして、「中古だけど」と続けるユウジに思わず抱きついていた。 いや、だってもうこれは反則だろ。俺と演りたかったって、そんなのもうこっちが我慢できなくなるだろ。 「あー、やばい。めっちゃ嬉しい」 そりゃ本音もだだ漏れになるってもんだ。 お、おう、とユウジは固まっていた。 さて困った。離れるタイミングを見失った。 「カホも!カホもだっこ!」 足下でカホがピョンピョン飛び跳ねてたから抱き上げた。しまった。思ったより重かった。でも助かった。 「ハジメちゃん、なんでニヤッてしたの」 前言撤回。すぐ下ろしてやったけど、「ねえねえ、なんでニヤッとしたのー?」としつこく聞いてきやがる。 「うるせえな、なんでもねえよ」 ピアノの前に座った。電源を入れてグリッサンドで鍵盤を撫でる。前のとは比べものにならないくらい精巧で曇りの無い音が溢れ出す。 「わあ、カホもやりたい」 「後でな。ユウジが俺に買ってきたんだから」 「代わってやれよ、大人気ない」 「ヤダ。俺に買ってきたんだろ」 「カホもやりたい!」 「何か弾いてやるよ」 「じゃあプリキュ」 「却下」 カホに「ずるい」と腕を揺さぶられながらヴァン・ヘイレンのジャンプを弾いた。 ずっとポップスやジャズやクラシックなんかを弾いていたからロックのビートを刻むのが物凄く楽しい。 カホもやる、とうるさかったから、 「ほらここ。この速さで弾いてみろ」 とやっとみせてカホの指先を鍵盤に置いた。カホは「こう?」と鍵盤を連打する。 「そ。そのままな」 この曲は指一本でベースが弾けるから、カホに合わせて右手のパートでメロディを弾くと、ちゃんと1つの曲に聞こえた。 「すごい!カホピアノひけた!」 キラッキラした目でこっちを向く。 「ほら手ェ止めるな」 「すごいじゃないか。でも先越されたな」 ユウジは困ったように笑った。 今度はカホがやる、と俺の腕を引っ張る。 根負けして代わってやった。言い回しが本当に姉ちゃんにソックリだ。 ガキの頃、ピアノの取り合いをしてたのを思い出す。 でもこれは俺のだからな、俺の。 こればっかりは、いつか壊れても、ユウジが居なくなっても、手放すことなんてできそうになかった。

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