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ふやけたせかいに、あざやかなきみ。

 スキダヨ。  アイシテルヨ。  飾らない真っ直ぐな言葉が嬉しかった。  ずっと一緒にいられるって信じてた。  それなのに。  サヨナラ。  古いカセットテープのように無機質な別れの言葉。  僕はただ――笑った。  ***  真っ白な空の下、ひとりで佇むちっぽけな僕。  降りそうで降らない雪は、まるで出てきてくれない涙のようだ。  ゆっくりと吐いたため息に応えるように、乾いた地面が軋んだ。 「やっぱりここにいた」  現れたのは、幼なじみのノエル。  取り柄は顔だけと言う、ある意味哀れな色男。  そんな彼は、むき出しだった僕の首に自分のマフラーを巻き付けた。  チープな恋愛ドラマの登場人物にでもなったつもりなのだろうか。  だとしたら、  大正解だ。 「なんだ、泣いてないじゃん」  透き通った緑色の瞳に、めいっぱい顔をしかめた僕がいた。  肩をすくめ、ノエルが謝る。 「恋人に振られたって聞いたから――」 「だから?」 「そういう時は泣いてもいいんだよ?」  幼なじみの栗色の頭が、くすんだ世界で一層際立った。  喉の奥に、ふいに感じた塩味。  じわじわと広がってくるそれを、歯を食いしばって堪えた。  悲しいなんて認めたくない。  淋しいなんて感じたくない。  それなのに、どうして。  世界がこんなにもふやけて見えるんだろう。  ゆらゆら揺れる視界の中心で、鮮やかな彼が笑う。  それがなんだかとても優しくて、気がついたら僕は、  泣いていた。 「好きだった……っ」 「……うん」 「大好きだった……!」 「うん」 「愛してたのに――」  サヨナラを言われた時、泣いて縋ればよかった。  僕を捨てないで。  そう言えばよかった。  口をついて出てくるのは、惨めな後悔ばかり。 「大丈夫だよ、純太。分かってる」  すべてを赦そうとするノエルの低い声が、耳元を掠める。 「全部、分かってるから」  あの人じゃないんだから分かるはずなんかない。  分かったフリなんてするな。  心の中ではそんな悪態ばかりついていたのに、 「ありが、とう……っ」  溢れたのは、感謝の言葉だった。 【Side 僕】

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