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第1話

昼の商店街は人通りが多く、すれ違う人並みを避けて歩かなければいけない程賑わっている。 ただその中を進む長身の男2人の周りは、何も言わずとも人が避けていた。 顔を見れば誰か、その街に住む人間なら誰もが知っている。 「……気色悪い視線が多いな」 「私らは頭ひとつ分くらい大きいから目立つのだろうね」 「お前が隣にいるからだ、馬鹿」 眉間に皺を寄せ、呆れたように(あい)は言い捨てた。 隣で呑気に歩く璃世(りせ)は、相変わらず笑みを浮かべながら悠々としている。 彼らはそれぞれの家族が会社を経営していた。 璃世は大手アパレルメーカーの四男として、モデルをしながら広告塔として顔が知られている。 藍は表に立つ仕事はしていないが、老舗の玩具メーカーで商品開発に携わっている。 璃世と藍は従兄弟の関係であり、同い年であった為に昔から行動を共にすることが多かった。 気難しく付き合う人を選ぶ藍にとって、璃世は数少ない交流を持つ人間だった。 璃世の言動は楽観的で藍はそれに苦言を呈することもあるが、その実璃世の思考に救われる時もあった。 お互いが23になった今でも交流があるのは、持ちつ持たれつの関係を保ってきたからだろう。 仕事の合間を縫って、璃世は市場の視察、藍は凝り固まった思考を解すために外に出ていた。 世に顔が知られている璃世は街行く人に気付かれ、声をかけられる度に律儀に手をあげて笑顔を返している。 藍はヒソヒソと聞こえる声など意に介さず、璃世だけではなく自分にも向けられる視線に苛立っていた。 「そろそろ藍の血管が切れそうだね。今日のところは引き上げようか?」 「あぁ。気晴らしになると思ったが、如何せん人が多い……これなら部屋に篭っていた方がまだ気が晴れる」 街の外れまで歩き、その先は細い路地が続く。 あまり治安が良くない区域まで近づいてしまったこともあり、2人はそれぞれの帰路に着こうと踵を返した時だった。 「やめてください……っ、彼、怪我を負っていて」 「五月蝿い!………………来いっ……黙って歩け!」 「だめ、待ってください!」 路地から聞こえた声に、思わず璃世は足を止めた。 誰かと話している様子だが、一方の声ははっきりとは聞こえない。 しかし、「待って」と叫ぶ青年の声だけは、雑踏をかき分けて璃世の耳に鋭く飛び込んでくる。 今まで聞いたことがないほどにストレートに響くその音の方に、璃世は迷わず足を進めた。 藍の声はどこか遠くから「おい」か何かと呼び止めている気がする。 それでも璃世は、ただ声の主を見たい一心で進む。 たどり着いた先には、中年の男に鎖で引かれて歩く2人の青年がいた。 「あ、あのっ……!」 奴隷商だと気付いたが、璃世は堪らずに声をかけた。 初めて見る光景に少し足がすくむが、ただあの声の正体を確かめたかったのだ。

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