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第1話

 ここは歌舞伎町のホストクラブ、ダークエンジェルだ。キャストが30人くらい居るごく普通のホストクラブで黒い壁はラメが入ったクロスが貼られている。ソファーは合皮で出来ているみたいでピンク色だ。黒い色とピンクっていうのは意外に合う。でもホストクラブにピンクはないんじゃないかと思う。風俗店みたいだ。経営者は何故ソファーの色をピンクに決めたんだろう。誠也は1人笑う。 今、ブランデーを片手に持ってにこやかにしている中谷誠也は23歳、このホストクラブに通うのは気に入っている子がいるからだ。相手の名前は春陽くんと言う。春陽って呼び捨てで呼んでもいいのだが、誠也は育ちがいいので人をくんとかさん無しで呼ぶことが出来ない。  誠也はヘネシーの水割りを飲んでいた。グラスの中は製氷機で作られたような四角い氷がぎっしり入っていて、プラスチックのボトルに入った外国産のミネラルウオーターで茶色い比重の重い液体がユラユラと割られている。誠也が飲んでいるヘネシーとはちょっと金額が高いブランデーでフルーティーで甘く飲みやすいものだ。席にいるホストの春陽くんも同じ物をガブガブ飲んでいる。ボトルがもう直ぐ空きそうだからだろう。空にして新しいボトルを入れることになったら春陽くんの売り上げに繋がるはずだ。誠也はこの21歳の男の子を指名している。ホストクラブは男の客も案外多い。大抵は金持ちのオバサンかキャバ嬢だが、誠也のような同業者も飲みに来る。誠也は歌舞伎町で名の知れたホストだ。でもホストの仕事は月、水、金の3日だけ。昼間もきちんと仕事をしている。ホストだけだったら親が泣くだろう。

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