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1 お金の代わりに
「ねーねー倉持 くん、金持ってきたー?」
「もうないです……」
蚊の鳴くような声で言ったら、肩の辺りを蹴り飛ばされて、思い切り転んだ。
校舎の壁に、背中を打ち付けて、じんじんと痛い。
いじめられ始めて、2週間。
お小遣いや貯めていたお年玉は、もうすっからかんになってしまった。
同じクラスの3人に、こんな風に校舎裏に呼び出されて、カツアゲと暴力に遭う。
中心人物の不良だから、誰も助けてくれない。
「金ねーんなら作ってもらうしかないんだよなー。ママ活でもする?」
笑いながら、押さえつけるように俺の胸のあたりを片足で踏む。
「いや、それじゃあ童貞喪失でラッキー体験になっちゃうよ」
「じゃー、ホモのオッサンに売るかゲイビに出させる?」
「証拠が残って俺たちが捕まるでしょ」
楽しそうに俺を踏みつけるのと、ため息混じりに腕を組んで見下ろすのと。
怖くて何も言えなくて、でもそんなの絶対に嫌で、泣きそう。
すると、少し離れたところでたばこを吸っていた主犯格が、のそのそとこっちにやってきた。
「バカの会話は見苦しい」
テンションマイナスの低い声で言い捨てる。
主犯格、澤村 くんがしゃがみ込んで、俺の顔をまじまじと見た。
「使えねえな」
そう言って、ふーっとたばこの煙を吹きかけられる。
思わず目をつぶって咳き込んだら、澤村くんは、小さく「あ」と言って、ふたりの方へ振り返った。
「明日の放課後、吉野 連れてこい」
「吉野って、あのしゃべんないやつ?」
「そう。こいつが金ないなら、他から取ればいい。欲求不満っぽいバカを集めろ。見せ物やって金取んぞ」
ふたりは何か合点がいったようで、ニヤニヤしながらうなずいていた。
「場所は?」
「たばこ部屋」
「りょーかーい。LINE流しとくわ」
澤村くんは、真顔のまま俺の方に向き直った。
「逃げんなよ」
ぎこちなくこくりとうなずく。
予鈴が鳴ったので、解放された。走って昇降口に向かいながら、考える。
見せ物ってなんだろう。
しかも、俺のせいで、関係ないひとまで巻き込んでしまうらしい。
申し訳なく思いつつ、でも、お金は本当になくて……それに、『逃げるなよ』と言った澤村くんの目は、本気だった。
逃げたらどうなるか、考えたくもない。
うわばきに履き替えながら、ぽろっと涙がこぼれた。
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