9 / 35

4-2

 放課後になり、たばこ部屋へ行くと、まさかの、ソファには既に別のふたりが座っていた。  他のクラスでハブられてるふたりだ。 「きっもちわりー!」 「デブ同士はマジでキモい」 「ブヒブヒ言いながらヤれよー」  相変わらず酷い言葉ではやし立てるギャラリーに内心怯えつつ、どうしていいか分からなくて戸惑っていると、いつもとは違うところに座った澤村くんが、ちょいちょいと手招きした。 「こっち来い」  黙ってそばに寄ると、隣に座れと言われた。  俺が澤村くんの横に座ったので、吉野くんが急に殴られたりはしない……はず。  澤村くんは、たばこに火をつけながら言った。 「チームで底辺ホモ使うのが流行りだした」 「え……?」 「派閥争いが、喧嘩の勝ち負けだけじゃなくて、ホモ使ってどんくらい稼げるかで知能戦みたいになってる。今日のコレはザコがやってるやつだから、ま、よく見とけ。逃げんなよ」  澤村くんの棒読みのようなしゃべり方は、人を縮み上がらせる。  逃げるなと言われたら逃げられないし、よく見ておけと言われたら、目をそらさず見るしかない。  片手で、吉野くんの手を握りしめた。  いつもの澤村くんの位置に座っているボスっぽいひとが、ゲラゲラ笑いながら言った。 「ひとり1,000円。でも新規の知り合い連れてきたやつは100円割引だから言ってー」  澤村くんが低い声で言った。 「こいつらは価格抑えてねずみ講。客に客連れて来させて儲ける作戦なんだとよ。アホらしい」  いじめているひとたちは5人で、次々思いついたことをやらせた。 「あああ、やめで……やだぁ……っ」  ぐしゃぐしゃに泣きながら、お尻におもちゃみたいなものを挿れられている。  思わず目をそらしたくなるけど、澤村くんの命令は絶対だ。  ギャラリーは、反応が半々。  過激なことができるので、次々に無茶なヤジを飛ばすひとたち。 「田中、チンコ自分でしごけよ!」 「床なめろー!」 「ギャハハキモすぎ!」  逆に、完全に引いている人たちもいる。 「うわー、マジで無理……」 「キモ」  そして引いているひとたちは、さっきからこちらをチラチラ見ている。  なぜ俺たちは、これを見せられているのだろう。  これをやれということなのだろうか。  辛くて、怖くて、吉野くんの手をぎゅうっと握る。 「別に、お前らにこれやらせるつもりはねえよ」  見透かしたように、澤村くんが言った。 「その代わり、他の派閥、特に3年。呼ばれても絶対行くな」 「えっと……それは……」 「お前らのことを狙ってる奴らがウヨウヨ。なんてったって、ぶっちぎりで儲かるからな。逃げんなよ。逃げたらリンチ」  目が本気だった。正気の沙汰じゃない。  人間をそんな商品みたいにして扱うなんて、ただのいじめを超えている。  でもそれがまかり通るのが、この掃き溜め校……。  横から、松田くんが話に入ってきた。 「脅されるか、殴りつけられるか、どっちかかな。夜道、気をつけてね。それに、俺たちから逃げたら君らもこうなるよ。でも安心して。俺たちは売り物壊すようなことはしないからね」  前々から思っていたけど、この3人は、それぞれ別の意味で怖い。  大柄な澤村(さわむら)修二(しゅうじ)くんは、絶対君主って感じで本当に怖くて、逆らったら顔が変形するまで殴られそう。  他方、結んだ長髪を揺らして笑顔の桜井(さくらい)涼介(りょうすけ)くんは、調子が良くてひょうひょうとしていて、殺さずに、楽しそうに生き地獄を味わわせるタイプ。  そしてこの松田(まつだ)尚也(なおや)くんは、現実主義って感じでいつも冷静だし、獲物が絶対に逃げないように、眼鏡の奥の目を光らせていつも見てるし、脅してくる。  要するに、3人とも、毛色が全然違って……毛色が違うから、怖いのかもしれないけど。 「ぁああんッ! もぉ、ゆるじでぇ……、だずげでぇー……!」 「オラ高木、休むんじゃねえぞ!」  白目をむきかけた田中くんを、ごめん、ごめん、と絶叫しながら犯す高木くん。  多分、コンドームはつけさせてもらえていない。 「なーか出し! なーか出し!」 「ああああっ」 「ごめんなさいっ、ぁあンッ田中くん! ああっ、出すよ! ごめんッ! あああぁああッ!」  目をそらせないまま、涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。  酷すぎる。  そしてこれは、俺が最初に澤村くんたちに言われてやってしまって、それが流行ったせいだと思う。  本当に、ごめんなさい。

ともだちにシェアしよう!