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4-2
放課後になり、たばこ部屋へ行くと、まさかの、ソファには既に別のふたりが座っていた。
他のクラスでハブられてるふたりだ。
「きっもちわりー!」
「デブ同士はマジでキモい」
「ブヒブヒ言いながらヤれよー」
相変わらず酷い言葉ではやし立てるギャラリーに内心怯えつつ、どうしていいか分からなくて戸惑っていると、いつもとは違うところに座った澤村くんが、ちょいちょいと手招きした。
「こっち来い」
黙ってそばに寄ると、隣に座れと言われた。
俺が澤村くんの横に座ったので、吉野くんが急に殴られたりはしない……はず。
澤村くんは、たばこに火をつけながら言った。
「チームで底辺ホモ使うのが流行りだした」
「え……?」
「派閥争いが、喧嘩の勝ち負けだけじゃなくて、ホモ使ってどんくらい稼げるかで知能戦みたいになってる。今日のコレはザコがやってるやつだから、ま、よく見とけ。逃げんなよ」
澤村くんの棒読みのようなしゃべり方は、人を縮み上がらせる。
逃げるなと言われたら逃げられないし、よく見ておけと言われたら、目をそらさず見るしかない。
片手で、吉野くんの手を握りしめた。
いつもの澤村くんの位置に座っているボスっぽいひとが、ゲラゲラ笑いながら言った。
「ひとり1,000円。でも新規の知り合い連れてきたやつは100円割引だから言ってー」
澤村くんが低い声で言った。
「こいつらは価格抑えてねずみ講。客に客連れて来させて儲ける作戦なんだとよ。アホらしい」
いじめているひとたちは5人で、次々思いついたことをやらせた。
「あああ、やめで……やだぁ……っ」
ぐしゃぐしゃに泣きながら、お尻におもちゃみたいなものを挿れられている。
思わず目をそらしたくなるけど、澤村くんの命令は絶対だ。
ギャラリーは、反応が半々。
過激なことができるので、次々に無茶なヤジを飛ばすひとたち。
「田中、チンコ自分でしごけよ!」
「床なめろー!」
「ギャハハキモすぎ!」
逆に、完全に引いている人たちもいる。
「うわー、マジで無理……」
「キモ」
そして引いているひとたちは、さっきからこちらをチラチラ見ている。
なぜ俺たちは、これを見せられているのだろう。
これをやれということなのだろうか。
辛くて、怖くて、吉野くんの手をぎゅうっと握る。
「別に、お前らにこれやらせるつもりはねえよ」
見透かしたように、澤村くんが言った。
「その代わり、他の派閥、特に3年。呼ばれても絶対行くな」
「えっと……それは……」
「お前らのことを狙ってる奴らがウヨウヨ。なんてったって、ぶっちぎりで儲かるからな。逃げんなよ。逃げたらリンチ」
目が本気だった。正気の沙汰じゃない。
人間をそんな商品みたいにして扱うなんて、ただのいじめを超えている。
でもそれがまかり通るのが、この掃き溜め校……。
横から、松田くんが話に入ってきた。
「脅されるか、殴りつけられるか、どっちかかな。夜道、気をつけてね。それに、俺たちから逃げたら君らもこうなるよ。でも安心して。俺たちは売り物壊すようなことはしないからね」
前々から思っていたけど、この3人は、それぞれ別の意味で怖い。
大柄な澤村 修二 くんは、絶対君主って感じで本当に怖くて、逆らったら顔が変形するまで殴られそう。
他方、結んだ長髪を揺らして笑顔の桜井 涼介 くんは、調子が良くてひょうひょうとしていて、殺さずに、楽しそうに生き地獄を味わわせるタイプ。
そしてこの松田 尚也 くんは、現実主義って感じでいつも冷静だし、獲物が絶対に逃げないように、眼鏡の奥の目を光らせていつも見てるし、脅してくる。
要するに、3人とも、毛色が全然違って……毛色が違うから、怖いのかもしれないけど。
「ぁああんッ! もぉ、ゆるじでぇ……、だずげでぇー……!」
「オラ高木、休むんじゃねえぞ!」
白目をむきかけた田中くんを、ごめん、ごめん、と絶叫しながら犯す高木くん。
多分、コンドームはつけさせてもらえていない。
「なーか出し! なーか出し!」
「ああああっ」
「ごめんなさいっ、ぁあンッ田中くん! ああっ、出すよ! ごめんッ! あああぁああッ!」
目をそらせないまま、涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。
酷すぎる。
そしてこれは、俺が最初に澤村くんたちに言われてやってしまって、それが流行ったせいだと思う。
本当に、ごめんなさい。
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