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 お通夜みたいな気分のまま、階段を上がり、教室へ戻ってきた。  澤村くんは何も言わないし、桜井くんはバツが悪そうにしている。  松田くんは、ゆるっとした目線をこちらに投げかけた。 「嫌になった? 飼われるの」 「いえ」 「本当は?」 「見てて辛かったです」  桜井くんは、眉間にしわを寄せながら言った。 「あーいうのは、お前らは気にしなくていーの。命令で飼われてんだから」 「でも、そのお金で遊ばせてもらう理由がないです」  松田くんが、ふうっとため息をついた。 「きちんと理由はあるよ。他のチームに取られたらそこが育っちゃうから、君たちを確保してる。いつも監視できるところに置いとかないといけない。だから自然と遊びの場にも連れて行くことにはなるけど、コストかけてでも飼う価値があるって、前にも言ったよね?」 「……はい」  それ以上何も言うことはできなくて、吉野くんに抱きついたら、泣けてきた。  止めようとしても止まらなくて、嗚咽を漏らして泣いてしまう。 「あーあーあー、慧。泣くなよ。連れてったオレが悪かったって」 「ちが、くてっ……っ、えぐ」  しゃくり上げる俺の背中を、吉野くんがさすってくれる。 「……っ、あの……俺、自分にかかる分は、自分で稼ぎます」 「稼ぐって? 何する気?」  呆れ声で聞く松田くんに、懇願する。 「どっか、ひとがいっぱい入るところ、貸してください。脱ぎます」 「必要ない」 「お願いします」  飼われている身なのだから、必要ないと断言されていることに逆らってまでお願いするのは、違うというのも分かっている。  けど、そうでもしないと自分が保てなくなってしまいそうで、このまま何もせずにいたら、罪悪感で気が狂ってしまうかも知れない。  すると突然、吉野くんが、掃除ロッカーからバケツを取ってきた。  床にぽこんと置いたと思ったら、バッと俺の胸ぐらを掴んでキスして、そのまま押し倒した。  教室の後ろの床に倒れ込む。  思い切り背中を打ち付けて、一瞬呼吸を忘れた。 「っ、痛……」  吉野くんが、耳元でささやく。 「いま抱いてあげる。投げ銭、いっぱい来たらいいね」  ネクタイがしゅるっとほどかれて、そのまま手首を固定された。  手荒くキスされる。 「ん、ん……」  意図を汲んだらしい澤村くんが、教室から全員追い出した。  桜井くんが廊下に出て呼びかける。 「5分だけうちのペットの交尾見せまーす。もうやってまーす。1人5,000円ねー」  松田くんが、カバンからコンドームとローションを投げて寄越してくれた。  吉野くんは迷うことなく俺のズボンを下着ごと下げて、後孔の中を探り始めた。 「ん、ぁあッ、あっ」  廊下に聞こえるくらいの声で喘ぐ。  教室内にひとが殺到してきて、俺たちの周りをぐるりと囲んだ。  校内では封じられてしまった遊び。  大枚叩いてでも見たいひとたちが、わんさといたらしい。 「やべ、こんな近くで見んの初めてだ!」 「うわー相変わらずきもちわりーなー」  嬉々として観察するひとたちに見せつけるように、腰をくねらせる。  吉野くんが、ぐっぐっとペニスを押し当ててきた。  心配そうな顔をしていて、たぶん全然解れてないからだけど、悠長なことをしていたら、休み時間が終わってしまう。  こくりとうなずき、ぎゅっと目をつぶると、一気に中を貫かれた。 「ぁあッ」  あごが跳ね上がる。  手を拘束されているから、吉野くんが腰を振れば、重力のままに体ごと揺さぶられる。 「はぁ、ぁあ、んっ、ん」 「吉野ー、早くイかせろー」 「んぁっ、ぁあ、……あっ、吉野くん、きもちい、おく、んぁあっ、それ……ん、そこ、あぁ」  視界の端に、松田くんが誰かを連れてきたのが見えた。  俺の顔をじっとのぞき込むのは、さっきのいじめられっこだ。 「川西。これ見て、ざまあみろって思う?」 「はい」 「余裕ぶっこいでたのが地に落ちる瞬間見るのって、楽しいでしょ」 「はい」 「飼われるってこういうことだよ。理解したなら、妹のパンツでもなんでも売ってきなね」  そう。俺のことを見て、いい気味だって思ってくれればいい。  こうでもして(さげす)んでくれないと、申し訳が立たない。  何度も何度も、揺さぶられるままに、甘ったるい嬌声を上げる。  吉野くんが、目で訴えてきた。時間か。 「ん、はぁ、……あ、イキたい、よしのくん、ぁ、イキたい……っ」  ガンガンと突き上げられる。 「も、イッちゃう、ぁあん、きもちいい、ぁッ……イッちゃうっ」 「イけ倉持ー!」 「ぁああっ、あんッ、イク、ぁああッ!…………!……っ」  ビュクビュク吐き出して、ワイシャツを汚す。  吉野くんが奥をひと突きしてイッたところで、澤村くんが上からジュースをぶっかけた――多分、着替える口実と教室の消臭。  ギャアギャア騒ぐギャラリーを外へ引っ張り出す桜井くん。  松田くんが体操着を投げてくれたので、びちゃびちゃの制服を着て、ふたりでトイレに向かった。 「ごめんね、吉野くん。無茶聞いてくれてありがとう」  吉野くんは、ちょっと目を細めて、俺のおでこにキスをしてくれた。

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