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 俺たちは、5分で15万以上稼いだ。  ためらいなくバケツにお金をつっこんだひとたち。  それから、ヤジ馬的に廊下から見ていたひとたちからも、1,000円ずつ回収したそうだ。  帰り道、派閥の数人を護衛につけての厳戒態勢で、駅までを道のりをとぼとぼと歩いていた。 「贖罪(しょくざい)はこれで十分だよ。だから君たちは、これ以上は何も考えなくていい」 「でも、これからも誰かからお金取ったりはするんですよね?」 「だから、そのことは考えなくていいの。ふたりとも、命令されて飼われてるだけでしょ? 俺たちが誰から金を取ろうが、君らには関係ない」 「はい」  松田くんはそう諭したあと、1番前をだるそうに歩いている桜井くんに軽くげんこつを入れた。 「涼介、いい加減機嫌直しなよ」 「うっせーな、殺すぞ」  桜井くんは、いじめられっこの川西くんを連れてきたことに怒っているらしい。  俺としては、彼に謝りたいのが1番だったので、松田くんがそうしてくれたのはすごくありがたかったのだけど……。 「オレ、慧が自分の分稼ぎたいって言ったから手伝っただけなんすけどー。ちゃっかりゆすりに使ってんだから、マジで意地きたねーよなお前は」 「あ? ちょっと下手(したて)にでてやりゃあてめえは」  殴りかかろうとする松田くんを、澤村くんがラリアットをくらわしてぶっ飛ばした。  ついでに桜井くんの頭をスパンと叩く。 「桜井、黙れ。松田のおかげで金づる確保できたんだからいいだろ」 「は!? じゃあ何で俺をぶっ飛ばした!?」  起き上がりながら松田くんが叫ぶと、澤村くんは冷たい目で見下ろした。 「うるせえからだよ」  額に青筋を立てながら詰め寄る松田くん。 「ごめんなさいっ、勝手なことして」  場を収めるべく頭を下げたら、澤村くんにチョップされた。 「お前、何を勘違いしてんだか知らねえけど、飼われてるだけだからな? 犬が飼い主の金の心配してサーカス開くなんて聞いたことねえわ。大人しく飼われてろ。ガタガタ抜かすなら捨てんぞ」  何も言えなくてうつむいたら、桜井くんがブッと噴き出した。 「……澤村、お前……おもしろすぎ」 「あ?」 「オレがガキくさかったよ、わりーわりー。慧の気が済んで金も入ってATMもゲットして、一石三鳥。修二くんの過保護も爆発して超面白かったから、もう気が済んだ」  澤村くんは一瞬何か言おうとしたけど、はあっとため息をついて、スタスタと先へ行ってしまった。  どうしていいか分からず、吉野くんに「もう1回謝ったほうがいいかな?」と聞いたけど、彼はふるふると首を横に振った。  これで終わりでいいらしい。  黙って歩きながら、思う。  いま周りにくっついて歩いている派閥のひとたちは子分みたいなもので、澤村くんたちに命令されれば、働く。  気に入られるために、自分を強く見せるために、または、いざというときに助けてもらうために……自分になんの得にもならない、カツアゲの代行をしたりしている。  そんな不条理を引き換えにしても、澤村くんたちの派閥に属せるというのは、価値があることなんだろう。  他方、俺たちは飼われているから、ただ手元に置いておかれている。何の労働もなしに。  底辺層から見ても恨みの対象だろうし、不良からみてもムカつく存在かなと思った。  底辺の俺たちの護衛なんて、屈辱的かもしれない。  生きてるだけでどんどん恨みを買ってるこの感じは、ひりひりとして怖い。  でも1番怖いのは、この恨まれた状態で3人に捨てられることだ。  やはり、逆らわないようにしようと思った。  底辺はどこまでいっても底辺で、どうやっても上のひとたちの顔色をうかがって生きるしかない。

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