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エピローグ

 見た目も性格も不良のスタイルもバラバラの、不思議な3人。  飼われるようになってから、少しずつ分かってきたことがある。  まず、松田くんがこの掃き溜め校にいる理由。  日々、発言や頭の回転の速さを見ていると、なぜこのひとはこんな偏差値最低の学校に通っているのだろう……と不思議だった。  しかし真相は、なんてことはない、桜井くんが頭が悪くてここにしか受からなかったから、仕方なく同じ高校に来たということらしい。 「3年になったら、金の回収と抗争はもっと効率的に下請けにやらせて、俺は受験勉強するよ」  親の仕事を継がなくちゃいけないから、大変だ。  次に桜井くん。  カツアゲの対象に俺を選んだのは実は彼らしく、なぜ俺だったのかを教えてくれた。  まず、なんと言っても気弱そう。運動神経も悪くて逃げられない。  それから、友達ゼロ。陰キャであっても、底辺同士で友達だったりするわけだけど、それすらない。  そして、桜井くんが1番重視したのは、まさかの顔らしい。 「オレ、いくら金になりそうでも、デブとか顔面キモいやつは1ミリたりとも触りたくないんだよねー」  俺はちっちゃくていじめがいがありそうだった、と言っていた。    そして、澤村くん。  3人が仲良くなったきっかけは、澤村くんが単身で3年生に乗り込んでいったからなんだけど……理由は不明だったのが、最近明らかになった。 「初恋だったんだよ」  泥酔した澤村くんが語ったのは、2つ上のいとこのお姉さん。  明るくて、美人で、優しくて。  そんなお姉さんが3年生の1人にヤり捨てられたと聞き、幼少期の淡い恋心を台無しにされた澤村くんは、阿修羅のごとく乗り込んで、そのクラスの頭だった不良をボコボコにしたらしい。  そのお姉さんは最近赤ちゃんができて結婚したそうで、生まれる前から溺愛の準備はできていると言っていた。 「吉野くん、これ、おいしいよ。食べる?」 「うん。一口」 「はい、あーん」  ちょっとだけしゃべれるようになった吉野くんとは、いままで以上にイチャイチャしているけど、それについて誰も何も言わなくなった。  ――お揃いのピアスが開いた陰キャを見たら、絶対に目を合わせてはいけない。  これが、うちの学校の定説になっている。  豊富な資金と圧倒的な喧嘩の強さで、澤村くんたちは学校の最大勢力になり、その組織を支える資金源の俺たちをつつくと袋叩きに遭う……という嘘か真か分からない噂が、そのまま定着したらしい。  ちょっとくらいの時間ならふたりきりでいても問題なくなったので、たまに、休み時間にふたりでクラスを抜け出して、校舎裏でまったりおしゃべりしたりする。 「……それでね、その動画、ガチャ5万もつぎ込んだのに、全然いい防具出なかったの。発狂してて、すごい笑っちゃった」 「課金に5万はもったいないね」  どうでもいい会話。なんでもない日常。  きっと俺たちの平和の裏では誰かが地獄を見ているのだけど、それを気にしていたら、この掃き溜めの世界では生きていけないことに気づいた。  ふたりで掴んだ平和だし、いつ終わるか分からないのだから、いま目の前にいる好きなひとと一緒に、一生懸命生き抜いていかないと。 「あ、慧。あれなんだろ?」  吉野くんが指差す方をふいっと見たら、そのまま押し倒された。 「わ!」 「あはは、引っかかった。可愛い」  両手首を掴まれたまま、口の中にあったかい舌を差し込まれる。 「ん、ふぅ……、んっ」  あちこち探られて、思わず甘い吐息を漏らしたら、吉野くんは唇をくっつけたまま、熱っぽく言った。 「慧。もっと可愛い声聞かせて?」 「ん……はずかし、ぁ」  妖艶な手つきで背中をすうっとなでられたら、思わずビクッと体が跳ねた。 「ダメ……こんなとこで」  弱々しく抵抗してちょっと目をそらしたら、ガラ空きの首筋にキスされた。 「ん、吉野くん、ん……やだ、気持ちよくなっちゃう」  顔を真っ赤にして彼の服の裾を掴んだところで、遠くから聞き慣れた声が飛んできた。 「はいそこー。うちのペットの仲良しを盗み見しないでくださーい」  かったるそうに歩いてくる桜井くん。  草むらがガサッと動いて、誰かがダッシュで逃げた……と思ったら、逃げた先に、松田くんがいた。 「うわっ!」 「窃視(せっし)。軽犯罪法違反かあ……5,000円でいいよ」 「すいません、許してくださいっ」  平謝りするひとを澤村くんがぶっ飛ばしたのをチラッと見たあと、俺は少しむくれて吉野くんに聞いた。 「気付いてたの?」 「うん。あと、そのうしろから3人がくっついてきてたのも気付いてた。ちょっとからかっちゃった。ごめんね」  吉野くんは(したた)かなひとだから、俺たちの関係を守るために、いつも考えてくれる。  千円札5枚で今日の3人はご機嫌だろうから、安心だ。 「慧。さっきの続き、したい?」 「今度……ちゃんとしたところで、ふたりっきりでね」 「ふふ。可愛い」  声を取り戻した妖精に頭をなでられて、心地よくて、そっと目を閉じた。 <完>

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