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第1話

 木の枝というものは、意外と落ちてない。  俺は小さな椿の根元にしゃがみ込んで、辺りをきょろきょろと見渡した。  枝がなければ、小石でもいい。  できれば自分の拳位の大きさ程度あったら、嬉しいけれど、我儘は言わない。  要は土が掘れれば良いのだ。  しかし、都合よくそんなものは落ちておらず、あるのは五センチ程度の楕円形の小石が良いところだった。俺は妥協してそれを握り込むと、ゆっくりと木の根元の土を掘り返していく。  確かこの場所にあるはずなのだ。  ごりごりと、十二月の冷気に固まった荒い土を削り、俺は白い息を吐き出した。口元で白く空気に溶けて消えていくそれに、少しだけ眼鏡が曇った。  十二年前に親友と埋めたタイムカプセル。  年の瀬である十二月三十一日、大人になったら一緒に掘り起こそうと約束していた。  ――それが一人で掘り起す事になるなんて。  当たり前のように、死ぬまで一緒だと思っていた、青いばかりの真っ直ぐな、屈折することを知らない無垢な頃が、懐かしい。  俺は胸の奥で、未だにこびり付いている、優しい記憶を、かさぶたを剥がすように引っ掻いた。  親友はきっと来ないだろう。  十二年も前の約束だ。覚えているかも不明だし、それにきっと覚えていたとしても、彼は俺に会いたいなんて思っていないだろう。  俺は自分でそう思いながら、胸の奥がしくりと痛むのを感じた。  一瞬力をなくして止まりそうになった手を、俺は意識して動かした。  背中を丸めて拗ねた子供のように、俺は公園の隅っこで土を削る。  親友であり、元恋人であった彼との記憶を、頭の中で燻らせながら。

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