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第2話
もしタイムマシーンがあるならば、彼と過ごした、ただ楽しいだけが続いていた小学生の頃に戻りたい。
一番の親友で、自慢だった彼は、運動神経も良くで、バレンタインにチョコレートを沢山もらう奴だった。俺は彼の隣で「いいなあ」なんて言いながら、背中にチョコレートを隠して笑っていた。
早い時期から自分が、同性愛者である事を理解していた俺は、それが周りとは少し違う事を何となく理解していて、けれど、それを負い目に感じる事はなかった。不思議と、ああそうなんだと、ある種他人事のように受け入れて、親友である彼――鴻(こう)が好きと分かった時も、そうなるだろうな、なんて、何処か予想できていた節さえ自分に感じていた。
この気持ちを打ち明けたいとか、知って欲しいとか、受け入れて欲しいとか、なかったと言えば嘘になるけれど、自分を「こうなんだ」と理解した時点で、諦めていた。
せめて大人になるまでは、隠した方が良いかもしれないという、勘が働いたからかもしれない。
年の離れた兄弟と親の元で育ったせいか、そのお陰で俺は年齢にそぐわない、客観性が備わっていたのも事実だ。
だから俺は彼の「親友」というポジションで満足していた。不意に彼と手が触れ合えば、彼が体当たりしてくれば、内心は心臓を躍らせていたけれど。
しかし、中学二年生の時。
俺の恋心が一途に彼へと向かったままだったのがバレてしまった。特別何をしたと言う訳ではない。
いつも通りの帰り道、夕暮れ時。
帰り道の小さな橋の上で、
「俺の事好きだろ」
と言われた。
俺は眼を丸くして、
「馬鹿じゃないの、きもっ」
と、言えば良かった。
――言えば良かったのに、鴻があまりにも突然言うものだから、驚きに言葉が詰まり、いや、と否定する間もなく、顔が夕日に焼かれて、燃え上がるような感覚を味わっていた。
否定するには間が空き過ぎて、肯定するには抵抗があり、呼吸をするのが精一杯だった。
そんな俺を、彼は静かに見守ってから、弟に向ける兄のような、仕方ないなという笑顔を浮かべて、
「俺も好きだよ」
と言った。
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