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第1話 第一歩
ヒラヒラ
ヒラヒラ
桜の花が散る
ヒラヒラ
ヒラヒラ
桜の花びらが子供達の舞い落ちる
幼稚舎の入園式に飛鳥井の家族や榊原の両親が集まり、入園式に向かう
その日朝から子供達はご機嫌だった
幼稚舎の制服を着てスキップしていた
桜林学園 幼稚舎の制服は明治時代から変わらない
濃紺のブレザーと短パンと帽子
康太もこの制服を身に着けて幼稚舎へ通った
懐かしき日々
何処かへ生まれ落ちた青龍を想って……
過ごした日々
桜林学園 幼稚舎までゆっくり歩きながら向かっていた
飛鳥井の家から桜林学園は歩いて15分位の所に在った
幼稚舎から大学院までエスカレート式の私立 桜林学園は莫大な敷地の中に在った
子供達が通うのだ
今日がその始まりの日だった
康太は流生と手を繋いでいた
榊原は翔と手を繋いでいた
太陽は清四朗、大空は清隆、音弥は瑛太と手を繋いで
スキップしながら歩いていた
桜の花がまだ残っていて
ヒラヒラ……ヒラヒラ……舞い散っていた
満開の桜の花を見上げ
康太は榊原を見上げた
「……来年も……再来年も……」
榊原は康太の手を強く握り締め
「10年後も20年後も……未来永劫……
君と見続けると約束しましたね」
「………伊織……」
康太は瞳を潤ませた
「愛してます……
君だけを愛してます」
榊原の笑った顔が……
桜と同化して……
康太はその姿を瞳に焼き付けた
忘れない
絶対に忘れない……
幼稚舎へと向かう道すがら、子供達は自己紹介の練習をしていた
流生が「あちゅきゃい りゅーちゃ」と元気よく手を上げて言う
康太は自己紹介が出来る様になった子を感無量な面持ちで見ていた
やっぱし流生はムードメーカーか……
血は争えねぇか……と流生を見て想う
翔も「あちゅきゃい かけゆ」と無愛想な顔で言った
もう少し笑顔があると……良いのにな……と康太は想った
音弥は笑顔全開で「あちゅきゃい おとたん!」と手を上げて言った
うんうん!可愛いぞ音弥
太陽と大空は「あちゅきゃい ちにゃ」「きゃにゃ」と役割分担して言っていた
何でも役割分担して半分ずつ
それは今も変わっていなかった
康太はクラス違ったらどうするのよ……と不安に思った
幼稚舎へは歩いて向かった
スキップする足取りが軽い
瑛太は「康太は幼稚舎へ行くまでに制服がドロだけでした…」と想い出していた
想い出して瑛太はクスッと笑った
「瑛兄……オレを虐める気かよ?」と頬を膨らませた
「違いますよ
あんなに小さかったのに……」
康太は他の子よりも小さかった
小さかったけど………やんちゃできかん気が強かった
「………康太……お前が父親だなんて……
嘘みたいです……」
瑛太は既に感無量で泣きそうになっていた
案外……この男は涙もろい
皆で向かった子供達の入園式
幼稚舎の門の前には学園長の神楽四季と教師の佐野春彦が立っていた
「入学おめでとうございます」
四季は深々と頭を下げた
佐野は子供達の胸に入園式のリボンを付けた
そして他の先生と共に子供達を連れて行った
子供達が歩き出した……はじめの一歩だった
この日 5人兄弟は幼稚舎に入園した
子供達が自分達の世界の外で暮らす第一歩だった
保育園と違って幼稚舎は組があって……
兄弟、全員同じく組とはいかないだろう
兄弟が初めてバラバラにされる第一歩でもあった
康太は……大丈夫かな?
不安で一杯だった
榊原は康太の手を強く握り締めた
「僕達の子供です
上手くやるに決まってます
ずっと見守って……手を差し出せば良い
目を離さなければ見失う事もありません」
「………伊織……」
「本当に君は心配性ですね
僕は君の幼稚舎時代の話を貴史や一生達から聞いて……
そのやんちゃぶりを受け継いだら……と考える方が怖いです
大人しい翔がスカートめくりなんてする日
来たらどうしましょうか?」
榊原の言いぐさに康太は笑った
「瑛兄はスカートめくりなんてしなかったからな……」
「義兄さんは案外むっつりスケベかも知れません」
榊原が言うと瑛太から拳骨が飛んできた
榊原は瑛太を恨みがましい目で見た
「伊織、兄に対して喧嘩を売ってますか?」
「………義兄さん……幼稚舎時代はどんなお子さんでした?」
「それを言うなら伊織は?
どんなお子さんでした?」
言い合いする息子達に玲香は
「お主達はどっちも不器用な奴ではないか
そんなに上手く立ち回れはせぬから心配するな康太」
と一蹴された
瑛太は黙るしかなかった
榊原も黙るしかなかった
「………義兄さんのせいですよ!」
肘で突っつくと瑛太も
「伊織のせいですよ!」
と肘で突っ突いた
真矢から「お止めなさい!大人気ない!」と釘を刺されて……二人は辞めた
大人は相変わらずだったりする
体育館の外はピンク色に染まっていた
ヒラヒラ
ヒラヒラ
桜の花が散っていた
子供達は今日から新しい日々を始める
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