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第95話 幸せな日常

流生は屋上でプランタの土を解して植え替えをしていた 慎一が手伝い夏の花を抜いて逝く 「おちゅかれしゃんね」 流生は抜いたお花にねぎらいの言葉を投げ掛けた 夏の花を抜き土を解す 流生は慎一にスコップで掬って貰った土をザルでふるいにかけていた 慎一は肥料をまぶせて更地にすると等間隔で穴を開けた 慎一は一つずつ流生の手に球根を渡すと 慎一に教えられた通りに球根を根を下にして植えた 「上手です流生」 慎一が誉める 音弥が「さいたぁさいたぁ ちゅーりっぷゅのはにゃが♪」と歌っていた 球根を植えると慎一はスコップを流生に渡した 「球根さんにお布団を掛けてあげてください」 慎一が言うと流生は土を掬って球根の上に土を被せた 音弥は「きれいにゃの さきゅといいね!」と流生に声を掛けた 「うん!ちれーにゃのさくといいにょ!」 秋に植えた球根は春には綺麗な花を咲かせてくれる 流生はそれが楽しみで仕方がなかった 球根を植え終わるとゾウさんのじょうろに水を入れた 流生はお花に水をあげた 流生は何時もお花に水をあげる為に朝早く屋上に上がるのが日課になっていた 音弥はお花にお歌を聞かせる為に、流生と共に屋上に来ていた 「ちんいち、これ、いちゅさくにょ?」 音弥が慎一に問い掛ける 「春ですよ、春になったら綺麗なお花を咲かせてくれます」 「たのちみね!」 音弥はニコッと笑った お花を植え替える音弥の横で康太が剪定鋏を手に唸っていた 太陽は「かぁちゃ むじゅかちぃにょ?」と心配そうに問い掛ける 「源右衛門は盆栽には煩かったかんな‥‥ 源右衛門の亡き後、枯らしたりボサボサにしたら恨んで出て来そうじゃねぇかよ!」 なんと言う言い種 榊原は苦笑した 大空は「かぁちゃ、ももちゃボーボーよ」と剪定したら謂う 「え?もも??ボーボーなのかよ?」 大空が謂うと翔が「ももちゃボーボーよ」と思い出して謂った 「桃?ボーボーなのかよ?」 桃太郎を思い浮かべる シュナウザーはそもそもボーボーのボサボサじゃねぇかよ?と康太は思う 康太は榊原を見た 榊原は「桃は人様の犬ですから‥‥うちの子は定期的に美容院に連れて行ってます それか一生が切ってくれますからね」 と謂い、剪定鋏を手にして瞳を輝かせてる康太を牽制した 康太は屋上に出て来てる兵藤を見つけると 「おーい!貴史!」と声を掛けた 兵藤は「おっ!どうしたよ?康太」と笑って答えた 「お前んちの桃太郎ってボーボーなのかよ?」 「え?桃?ボーボー?それは何よ?」 「オレの子が謂ってた」 「桃‥‥元々ボーボーだろが?」 兵藤が謂うと大空が屋上のフェンスに顔を当てて「ひょーろーきゅん!」と手を振った 「おっ!大空!どうしたよ?」 「ひょーろーきゅん ももたんボーボーよ」 「え?」 「かおがねぇ、わからにゃいにょね!」 「顔が解らねぇ?」 兵藤はそもそもひげだらけの顔じゃねぇかよ?と想った イオリが大空の横に来て顔を出すと、兵藤を見付けて ワン!と吠えた イオリのお目目はキラキラだった チリチリの髪の毛は手入れされてて‥‥ 剪定鋏を持ってる康太を見て 「‥‥おめぇイオリの毛の剪定とかしてるんじゃねぇだろうな?」と謂った 康太は大爆笑だった 「オレは源右衛門の盆栽のお手入れだ! 犬の毛はコレじゃ無理だろうがよぉ!」 だって‥‥‥やりそうじゃんお前‥‥ とは言えなかった 兵藤は「桃連れてお前んち逝く!」と言い屋上を後にした 榊原は聡一郎に電話を入れた 『何か用ですか?伊織』 「貴史が来ます、応接間に入れておいて下さい」 『解りました』 聡一郎はそう言い電話を切った するとタイミング良く玄関のチャイムが鳴った 聡一郎は相手を確かめてロックを解除した 「空いてます貴史」 そう言うと兵藤が入って来た 屋上から榊原と康太が下りて来る 兵藤は桃太郎を連れて来ていた 榊原は玄関にいる桃太郎を見て‥‥‥立ち止まった 後ろを歩いていた康太は激突して 「伊織、急に立ち止まるな!」 と怒った 「康太‥‥」 榊原は兵藤の隣の桃太郎を指差した 桃太郎は‥‥‥‥ 何処が目か解らない程に‥‥‥ボーボーでモッサーとしていた 大空が謂う通り桃太郎は 「ボーボーやんか!」と康太が呟く程だった 兵藤は「え?そうか?シュナウザーだからな、こんなもんだろ?」と不思議そうに問いかけた 康太はぶるんぶるん首を振った 「おめぇ最近美容院に連れて行ったのかよ?」 兵藤は思案する 美容院?‥‥‥そう謂えば連れて行ってないかも‥‥ 「ヤバい連れて行ってないわ」 イオリが桃太郎と並ぶ 瞳カヤカヤのイオリに 顔すら解らない桃太郎 康太は「ないわー」と呟いた 大空は「ねっ、ももちゃボーボーね」と念を押した 「だな毛玉やん‥‥これじゃ‥‥」 「すまん‥‥桃に手が回らなかった」 兵藤が謝ると康太は 「美容院は定期的に連れて行けよ! でねぇと『ボクはチャンピオン犬じゃないから‥‥放っておかれるんだ!』なんて想って鳴くじゃねぇかよ!」と釘を刺しておいた 桃はガルと仲良くじゃれていた 兵藤は「あの足の短い方はボーボーじゃねぇかよ?」とボヤいた 榊原は苦笑して 「ガルは美容院に逝くと解ると脱走するので‥‥康太が何時も剪定鋏で刈ってやろうか!とボヤいてます」 と困り顔で謂った 兵藤は「犬ってトリミング好きじゃねぇのかよ?」と意外な顔で問いかけた 「ガルは誰かに触らせませんからね‥ 一生が何時も刈ってくれてます」 「一生?犬も刈れるのかよ?」 「ええ、子供の髪もたまにカットしてくれてます」 「器用な男だな」 「イオリはチャンピオン犬ですからね、流石と美容院に行かないと‥‥散歩で美緒さんに逢うので、くすんだわね!とは謂われない様に美容院に連れて行ってます」 と内情をポロッと話した 桃太郎は最近髪の毛がもっさーとなって前が見えにくかった だけど別に気にする事なく元気だった 一生が牧場から帰って来ると応接間に顔を出した 「おっ、貴史来てたのかよ?」と声を掛けた 桃太郎が一生に飛び付きペロペロ舐める 「桃、久しぶりだな」 桃太郎の首輪には一生がプレゼントした首輪が光っていた 一生はフサフサの毛を撫でながら‥♪ 「あれ?おめぇ‥‥目は?」と首をかしげた そしてもっさーとした顔に目を探した 一生は「貴史、犬の目は生命線だ、気を付けてやらねぇと怪我とかするぜ!」と小言を謂った 「お前も謂うのか‥‥」 兵藤がボヤくと 「あん?誰が俺の前に謂ったのよ?」と問い掛けた 「大空」 「あぁ、大空は洞察力と記憶力はお子様レベルじゃねぇからな」 「そうなのか?」 「流石、旦那の子だよ」 一生はそう言い桃太郎の前髪を掻き上げた 「目、瞑ってろよ桃」 一生はサイドボードの引き出しから鋏を出すと櫛で毛を解いて目の回りを少しだけ切った 「これで少しは見えるかな?」 一生はそう言い桃太郎の毛を掻き上げた 長い毛を切って揃える 兵藤は「うめぇなおめぇ!」と呟いた 慎一が「一生はペットトリミングの資格を持ってますからね」と上手くて当たり前だと謂った そこはかとなく計り知れない兄弟だった 奥が深すぎて‥‥兵藤はコメントに窮した 桃太郎が綺麗にカットされる 流生が小さな箒と塵取りを手にして、せっせと毛を片付ける 音弥がそっとゴミ箱を差し出す 太陽と大空と翔はマスクをして備えていた アレルギー持ちの太陽と大空と音弥と翔は、犬の毛が飛び散るとすかさずマスクを付けるように「とぅちゃ」に謂われていた 一生は桃太郎の毛をカットして 「うし!これで見易くなったろ?」と問い掛けた 桃太郎は感謝の気持ちを込めて一生を舐めた 烈が桃太郎にそっとジャーキーを差し出した まるで「お疲れ!」と労うその貫禄に‥‥ 「烈、おめぇは見るたびに貫禄だな」 と兵藤は呟いた 榊原は子供達を応接間から出すと、空気清浄機を着けて部屋の掃除をした 「息を吸ってはいけませんよ!」 父が謂う 子供達は、うんうん!と頷いた 掃除をして毛がなくなるのを確認してから子供達と康太を応接間に戻した トバっちりの兵藤は榊原に 「すまなかった」と謝罪の言葉を投げ掛けた 「桃太郎のカットは換毛期にはせねばなりませんよ! 換毛期にカットしないからもさもさのボーボーとなるのです!」 説教され兵藤は 「解った‥‥今後は気を付ける」 と謝罪しまくりだった 慎一はソファーに座らせた烈の前にお茶と煎餅を置いた ずずっ、と言うお茶をすする音が応接間に響いた ふんふん!と鼻息も荒く烈は兵藤の膝の上にダイブした 「おもっ!」 兵藤は想わず烈の重さに呻いた 榊原は烈のお茶を渡す ずずっとお茶をすすり煎餅をパリッと食べる 慎一は翔にも「お茶要りますか?」と問い掛けた 翔は頷いた 翔の前に熱々のお茶と饅頭を置く そして他の子の前にジュースとカステラを置いた 音弥は「しゃんじのおやちゅはぶんめーろー♪」と歌を歌ってご機嫌だった 流生は慎一に「ちんいち、ゆれたまぎょ!」と欲しいのを口にした 慎一は「待ってて下さいね!」と言い応接間を出て行った 康太は兵藤に 「うちの子は卵が好きだからな、慎一は安くて新鮮な卵を買うためにスーパーのチェックは欠かさねぇんだよ」と内情を話した 暫くして慎一がお子様用の茶碗にゆで卵とホークを持ってやって来た 「どうぞ!」 慎一が置くと流生はホークを手にして、ニコニコしながらゆで卵を食べ始めた 兵藤は「流生、カステラじゃねぇのかよ?」と問い掛けた 「りゅーちゃね、あまいのらめにゃにょ!」 と甘いのはダメだと大人顔負けの言葉を口にした 「お子様は‥‥甘いの好きだろ?」 兵藤が謂うと一生は肩を叩いた 「貴史、おめぇの目の前にお茶と煎餅や食ってるの見えねぇのかよ?」 確かに‥‥ 翔は饅頭だが、烈は煎餅だわ 兵藤は「翔は饅頭とは渋いな」ともぉなんでも良いや!と自棄糞に謂った すると慎一がそれに答えた 「翔は次代の真贋のお披露目を終えたので、菩提寺に役務で逝く事も多々とあるのです そんな時は檀家が出してくれるお茶請けは和菓子ですからね 翔は和菓子を大量に貰って来る訳です それを翔は食べる様にしているのです」 と内情を話した 兵藤は驚愕の瞳をして 「翔‥もう役務してるのかよ?」 とその重責を口にした 「翔の場合、菩提寺に常にいて檀家や参拝者のお相手をするのです 翔に逢う為に菩提寺に来る方も多くて‥ 翔が菩提寺から還ると、かなりの量のお菓子を貰って来るのです」 飛鳥井家次代の真贋 顔見せから始まり、仕事を始めるまで矢面に立たねばならぬ 翔は康太に「かけゆ‥‥まきゃろんたべちゃい」と呟いた 和菓子をひたすら食べる それは結構‥‥大変な事だった 康太が「なら明日は全員マカロン食おうぜ! そこの貴史が買って来てくれるかんな!」とねだり始めた 兵藤は「買わさせて戴きますとも!」と自棄糞に答えた 康太は笑っていた 皆も笑っていた 皆の手が他に行ってるから‥‥ 烈は康太のカステラをパクっと食べた そして紅茶をぐびぐび飲む 康太は「おめぇは本当に油断がならねぇな」とボヤいた 「おちょいにょ」 パクパク食べる烈に 「おめぇは明日も煎餅だ!」と康太は捨て台詞を吐いた すると烈はふんふん!と鼻息も荒く母の膝の上にドスンっと座った 「うっ!重てぇな!」 そう言いながらも烈を抱く 「かぁーちゃ」 烈は母が大好きだった 母と一頻り触れあうと烈は父の膝にもドスンと座った 「烈、どうしました?」 「けーき」 と催促しつつ 「とーちゃ ちゅき」 烈が父に甘える けーきと好きが同列なのは苦笑するしかない 烈はふんふん!と鼻息荒く偉そうに謂う 榊原は烈のつむじに口吻けを落とし 「僕も大好きですよ」 と答えた 康太が「ずりぃ!」と榊原に抱き着くと 流生も「じゅりゅい!」と榊原に抱き着いた 音弥も置いていかれてたまるかと 「おとたんも!とぅちゃ らいすきよ!」と抱き着いた 翔と太陽と大空は目配せをして父にダイブした ドスンっと榊原に飛び付かれて榊原は我が子を抱き締めた 「ひなも とぅちゃすき」 「かなも とぅちゃすきよ」 「かけゆも とぅちゃらいすきよ!」 我が子から愛を伝えて貰う 桃太郎は嬉しくなってワンワン!と吠えた そして『ワンワンワン!(ご主人貴史大好きだよ!)』と吠えて兵藤に飛び付いた ペロペロ顔を舐められ桃太郎の愛情を伝えて貰う ガルは康太の膝を鼻で突っついた 「ガルどうしたよ?」 『ワンワンワン!(ボクもご主人康太大好きだよ!)』 元気に吠えて尻尾を振りまくる 康太はガルを抱き上げて撫でた 楽しい時間がそこにあった 桃太郎の大好きな時間がそこにあった 桃太郎は嬉しそうな顔をして兵藤の膝の上で眠っていた ご主人貴史の楽しそうな声がする ご主人貴史が嬉しそうだとボクも嬉しいよ ずっと ずっーっと こんな時間が続けば良いのに‥‥ 桃太郎の願いだった 大空は桃太郎を撫でて 「ボーボーなくなっちゃね! よかっちゃね!」 と嬉しそうに謂った 兵藤は「大空、ありがとうな!」と礼を謂った 大空は榊原と同じ顔して笑っていた 音弥はずっと歌を唄っていた 流生は兵藤に植木鉢を「あげゆ」と渡した 兵藤は植木鉢を貰って 「これは?」と尋ねた 「ももちゃ らいすきなくちゃ!」 ???? 首を傾げる兵藤に一生は 「犬はこの草が好きなんだよ」と教えてやった 良く見れば応接間の横のテラスには幾つも植木鉢が並べてあった その植木鉢には緑に繁った草が生えていた 「犬、食うのかよ?この草」 「お腹に良いんだぜ? 流生が育てて飛鳥井のワン達に食べさせてる」 「流生が育てたのかよ?」 兵藤は驚いていた 榊原は「屋上の上の花壇の花は流生が育ててます 今日屋上にいたのはチューリップの球根を植えていたのですよ」と教えてやった 飛鳥井の玄関にもプランタで花が植えてあった 兵藤は「玄関の花も流生が?」と問い掛けた 「そうです、流生はお花が大好きなのです」 親バカ全開で榊原が話す 兵藤は子供達の個性を生かした育て方に感心していた 翔は真贋としてかなり厳しい育て方をされてるのか‥‥ 常に冷静で大人しい だが他の子は歌が好きだったり花が好きだったり個性が出ていた 応接間に慎一の子の和真がやって来ると榊原は子供達をソファーに座らせ立ち上がった 「どうしました?和真」 「義兄さん株価の変動が激しいので見て下さい」 謂れ榊原は和真が持ってきたPCを空いた席に移って見る事にした 和真と榊原は難しい話をしていた 兵藤は「あれは何時もかよ?」と康太に問い掛けた 「適材適所配置されたかんな‥‥」と呟いた 「片割れは?」 「姫巫女の所で物見の修行中だ」 「別々?」 「持って生まれた力が違うかんな」 兵藤は言葉もなかった 子供の成長は早い 目を離したら見知らぬ子になりそうで怖い 兵藤は「俺も頑張らねぇとな」と呟いた 康太は笑っていた 「あんまし忙しくなると桃も淋しがるし、オレの子も淋しがる おめぇはおめぇのペースで逝けば良いんだよ! オレらはまだ学生と言う大義名分ならあるしな!」 形無しである 「だな!俺は俺の道を逝くさ!」 「でねぇと蹴り上げるかんな!」 一生は兵藤を抱き締めた 「サポート出来る所は俺等がいるからな!」 流生が「りゅーちゃもいりゅからにゃ!」と兵藤を励ました 音弥も「おとたん、いりゅよ!」と兵藤を励まし 太陽も「ひょーろーきゅん ひなもいりゅ!」 大空も「かなもいりゅ!ひょーろーきゅん」 と何だか慰められ励まされ兵藤は笑った 烈がふんふん!と兵藤の肩を叩いた 桃太郎は幸せそうな顔でまだ起きない 優しい時間は明日へも続き ずーっと続いて逝くのだった

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