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( 1) オレとヒナタ
最近のオレと幼馴染のヒナタのマイブームは、ジグソーパズル。
年末の福引だか何かで手に入れたという貰い物なのだが、かなりピースが多い。
捨てるのも、という事で冬休みからやり始めたわけだが、二人がかりでもそう易々とは完成しそうもない。
しかも、絵は、ゴッホのひまわり。
だから、似たような絵柄のピースが多くて難易度も高い。
その日は、お正月気分もすっかり遠のいた1月の休日。
今日もオレの家でヒナタと一緒にジグソーパズルと格闘していた。
「あっ、あったよ!」
「おっと、こっちもだ」
ヒナタは、ピースの山をかき回せながら言った。
「ところで、ヒナタ。ひまわりとヒナタって似てない?」
「似てないよ!」
ヒナタは、いーっと怒った顔をした。
オレは、はははと笑うと、ヒナタの脇をこちょこちょした。
「あはは。もう、やめてよ! 航太!」
オレ達は、いつもの通りこんな風にじゃれ合う。
「航太! 仕返し! それっ!」
「あはは、やっ、やめろよ! ばっ、ばか! パズル崩れる!」
そんな会話をしながら、もくもくと組み上げていく。
ところで、ようやく四隅と四辺を並べたところで、1ピースが足りないことが判明した。
「やっぱり端っこないな。どこにいったんだろうな?」
「ね、そのうちに出てくるかな?」
オレは、腕をぐるぐる回して肩をコリコリ鳴らしながら言った。
「ちょっと、休憩しようか?」
「うん!」
オレは、手を止めてソファに腰を下ろした。
ふーっ。
一息つく。
ヒナタもオレの横に座った。
そこは、昔から変わらないヒナタの特等席。
二人もたれかかるように座ると、自然と手を繋いだ。
指を絡める。
ヒナタと手を繋ぐと安心する。
ふと、ヒナタの顔を見ると、優しさを湛えた柔らかい表情。
ヒナタも同じように思っているんだろう。
オレの癒しのひととき……。
ヒナタは、無言で目を閉じて顎を上げた。
オレも同じタイミングで目を閉じてヒナタの顔に顔を近づける。
唇が合わさる。
チュッっと弾ける可愛い音。
すぐに口を再び合わせる。
今度は、舌を絡ませてながら吸いつく。
唇をよだれで濡れ、ぴちゃ、ぴちゃと音を立てた。
慣れた舌使いで繰り返し絡み合い弾け合う。
気持ち良くて、ビクビクっと体を震わす。
そして、熱っぽい吐息が漏れる。
んっ、んっ、ぷはっ……。
「はぁ、はぁ。ヒナタ、可愛いよ」
「……くすっ。航太だって、可愛いよ」
オレは、そのままヒナタを押し倒すように覆い被さった。
オレとヒナタの関係。
友達? 親友?
少し違う。
水野 陽向 と、オレこと、平井 航太 は、幼馴染。
同じアパートの隣同士。
幼馴染といっても、普通の幼馴染とは少し違う。
まず、二人とも、片親がいない母子家庭だ。
だからと言うのもあって、互いに通じ合うところも合った。
何より、親は働きづくめで夜遅くまで一人でいることが多く、互いに一緒にいる時間が多い。
普段、親は家にいる事はなく、そのせいもあって、朝から晩までずっと一緒にいた。
そして、小学校、中学と一緒に上がり、高校へ入学。
市内の公立高校である美映留 高校へ入学したのだ。
ヒナタの容姿だが、正直いってものすごく可愛い。
男子だけど、目がぱっちりで垂れ目。
髪の毛はさらさらで、人懐っこい丸顔。
そして、性格もオレと違い、すこしおっとりとして優しい性格。
だから、オレがしっかりと守ってやらないといけないのだ。
ちなみにオレは、まぁ、標準的な高校性の男子。のはず……。
確かに、背は前の方だが、精悍な顔立ち。と思っているわけだが、ヒナタに言わせれば、
「航太は、カッコいいっていうより、可愛いだよ。自分で言うほど男らしくないよ。ふふふ」
と、オレをバカにする。
たしかに、女顔とよく言われるのも確か……。
でも、性格は、誰よりも男らしいと自負している。
最初にヒナタと出会った時の事は、今でも昨日の事のように思い出せる。
オレのアパートの隣に引っ越してきたヒナタは、ヒナタのお母さんに連れられてオレの家の挨拶にきたのだ。
もじもじする同年代の子。
小さなクマのぬいぐるみを抱き抱えていた。
「ほら、航太。ご挨拶して」
母親に促されて、お辞儀をした。
男の子は、サッと親の後ろに隠れる。
「なぁ、その子、何て名前だ?」
オレはクマのぬいぐるみを指差して言った。
男の子は驚いた様子だったが、すぐににっこりした。
「この子は、クマのクーちゃん!」
「へぇ、クーちゃんか。よろしくな、クーちゃん。で、お前はなんていうんだ? オレは航太だ」
「コータ君? ボクの名前はヒナタ。ヒナタって言うんだ」
満面の笑顔で答えた。
オレは、ドキッとした。
今まで、こんなに無垢で眩しい笑顔は見たことがなかったからだ。
「ヒナタか、オレの家で遊ぼう」
「うん!」
オレ達は、握手をするとすぐに友達になった。
それからと言うもの朝から晩までオレ達は一緒に過ごした。
さて、こんなオレとヒナタだが、小学校のころから日常的にキスをするようになっていた。
きっかけは、テレビドラマ。
お互い、夜遅くに親が帰ってくる。
だから、大人向けのテレビドラマを二人でよく見ていた。
そして、試しにやってみよう、となり、キスをした。
でも、まだ唇を合わせるだけのキス。
ディープキスをする様になったのは、別の機会。
ヒナタの家は時折、離婚した父親がやってきては金をせびって帰って行った。
でも、酔っ払って来た時は、ヒナタのお母さんやヒナタに暴力をふるう。
そこで、オレは母親と相談し、給料日前後の週末は、オレの家の避難させるようにしていた。
ドンドンドン!
「おい、いるんだろう! 出てこいよ!」
ヒナタの父親が扉をたたくと、ヒナタはオレの腕の中でブルブルと震えた。
「ヒナタ、大丈夫だよ」
その時、オレはとっさにヒナタの唇を合わせた。
唇から震えが伝わる。
オレは思い切って、舌をヒナタの口に入れた。
ヒナタは、最初、驚いたようだがすぐに舌を伸ばしオレの舌に絡めてきた。
必死になって互いの舌を合わせる。
しばらくして、ヒナタの父親は帰っていくと、オレはヒナタにそっと囁いた。
「なっ? 大丈夫だっただろ?」
「うん! 大丈夫だった!」
元気なヒナタの声。
その時、オレは、ヒナタを守るのはオレしかいない。
オレに与えられた使命なんだとハッキリと思った。
さて、それからは、ディープキスの快感を忘れられず、影に隠れて、互いの口をむさぼりあう仲になったのだ。
これが、オレとヒナタの関係。
友達? 親友?
いやいや、それ以上の関係なのだ。
で、いつものように、オレはヒナタを押し倒し覆い被さる。
でも、今日は様子が違う。
ヒナタは顔を背けながら言った。
「はぁ、はぁ、ちょっとまってよ。今日は、航太に言っておきたいことがあって……」
「なぁ、ヒナタ。どうして、キスやめるんだよ……」
オレは構わずにヒナタの唇を追う。
「なんだよ。んっ、んっ」
「あっ、もう、ちょっと、待ってったら……」
確かにいつもと様子が違う。
オレは、それを察してソファに座り直し、ヒナタをひっぱり起こした。
「何だよ、言っておきたい事って?」
「ボクさ、好きな人、できたんだ」
「へっ……?」
オレは、ヒナタの言葉に言葉を失った。
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