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第27話
「学校に行きたくないな。」
小学生のような言葉が口をついて出てくる。
本当に色々な意味で学校に行きたくない。
土曜日に使い果たした体力を回復するために日曜日はずっと安静にしていた。
だが日曜だけでは疲れが取れず 月曜日まで持ち越してしまった。
身体が辛くても仕事は待ってはくれない。
「……はあぁぁぁぁぁ~………」
つくづく駄目な奴だな 俺は。
あの日 とうとう中島の押しに負けて「恋人」と認めてしまった。
ううっ、だって恋人と言わないと………
ぼぼぼんっ❤(//>///<//)
ずっとあのまま 俺の中に居座るっていうし……
帰ってもらわないと中島の親御さんが心配するし
お、俺も壊れちゃうし(//>///<//)
……認めるしかなかった。
考え事をしながら歩いているうちに いつの間にか学校に着いていた。
美術準備室に向かうと教室の前に佇む人影が見える。
特別教室の廊下は節電で薄暗くなっていて顔が良く分からない。
…中島に背格好が似ているな…
「まさか。」
あれだけ学校では会わないと約束したのだから、ここに来るわけがない。
体中が悲鳴を上げているからゆっくりと歩いていると
向こうがこっちに気が付き駆け寄ってくる。
「! 先生!」
やっぱり中島かっ!!
がっくりと疲れが倍増する。
お前はどうして俺の話を聞かないんだっ?!
「大丈夫ですか?!先生が心配で待っていました。」
そんなに心配するんだったら、あんなにしなきゃ良いのに!!
腰砕けになってしまった俺を、中島は甲斐甲斐しく身体を拭いたり、コンビニで弁当を買ってきたりと土曜日は一日中、傍についていた。
帰れと追い出さなければ、もう一晩泊まりそうだった。
「大丈夫って言ったろう。第一、約束と違うじゃないか。これからはここに来ないと約束してくれ。頼むよ。」
「会うことすら駄目なんですか?何もしませんから先生の傍に居させてください。」
「何度も同じ事を言わせないでくれ。」
「俺が目を離した隙に先生を他の奴に盗られるのは嫌なんです。」
一瞬、石崎の顔がよぎるが、あれは悪質ないたずらだ。
「そんなことあるわけないだろう。」
それよりこんな会話を誰かに聞かれたらどうするんだ?
俺は周りをキョロキョロと見回しながら美術準備室の鍵を開ける。
「先生が可愛いから心配なんです。」
か…可愛いっ??
そりゃあ180㎝の中島から見たら俺なんかチビにしか見えないだろうけど普通の30歳のおじさんなんだぞ。
中島は捨てられた子犬みたいな目で上から見つめてくる。
「お願いです。先生の傍に居させてください……それともあの日、先生が駄目って言うのにいっぱいしたから怒っているんですか?」
「わああああっ!言うなっ!しーしー!」
俺は中島を美術準備室に押込んでドアを閉めた。
ドア越しに外に人気が無いか耳をそばだてて確認すると人気はないようだ。
「……ふぅ、危ない。」
「……先生……………先生の恋人は誰ですか?」
まったく何を言い出すかと思えば……またこの質問かよ。
あの日、何度も何度も、中島が納得するまで言わされた。
呆れて二つ目の大きなため息が出る。
「俺はもう知らん。」
「先生っ!!」
中島はすがるように後ろから抱きついてきた。
「嫌です……先生…ごめんなさい…酷いことして…でも…俺……」
俺の右肩には中島の額が押し付けられていて手は小刻みに震えている。
泣いているのか?
……中島のバカ。
こんな恥ずかしい事、言いたくないのに……
「………………お前だろ……何度も言わせるな。」
「えっ?」
「…その上、印をつけたくせに。」
「…印…?」
自分で言ったのに忘れてる。人の事言えないじゃないか。
「コレは誰がつけたんだよ。」
俺は右の首に貼ってある絆創膏を指差した。
この下には中島がつけたキスマークがある。
「ごめんなさい……」
「しかも『先生は忘れやすいからどこを見ても思い出せるように恋人の印をいっぱい付けます。』とか言って、あんなに沢山……限度というものがあるだろう!」
俺の身体の至る所に花弁が舞っているように付けられている。
「…はい、すみません。」
中島はまだ怒られていると思っているようだ。
もう、仕方ないな。
「次はちゃんとセーブしろよ。お前のせいで今日学校来るの大変だったんだからな。」
「……!!」
中島は俺の言っている事がやっと分かったらしく嬉しさのあまり大声を出した。
「じゃあ!俺、本当に付き合っ…ウプッ!」
俺は慌てて中島の口を塞いだ。
「言うなって言ってんだろ!」
コクンと頷くのを確認してからそっと手を離した。
「…放課後にまた来ます。」
「おい、だからそれは駄目だって…」
中島の耳に俺の声は届いていないのか、礼儀正しく一礼すると美術室を出ていく。
「アイツ自分の都合のいいところだけしか聞いていないだろ。ここには来ない様に言わないと!」
後を追いかけて廊下に出ると中島は両手を天井に突きあげていた。
「…?…なにして…??」
すぐに振りおろしたその手が中島の顔の前でガッツポーズに変わる。
「ヤッタ―――ッ!」
「!!!!!!!」
学校中に響き渡るような大声で叫んだ。
俺は慌てて美術準備室に飛び込む。
何事かと他の生徒が中島を見に来るが注目を浴びても本人は気にしていない。
中島の声を聞きつけて井上が4階まで上がって来た。
「拓海!今の大声なんだよ。大学の推薦でも取れたのか?」
「ちがう。もっとイイ事だよ。」
「なんだよ、教えろよ。友達だろ?」
「勿体無いから教えてらやない♪」
「なんだよ!拓海のケチ!」
放課後、満面の笑みで美術室に来た中島に、たっぷりと説教をしたのは言うまでもない。
❤おしまい❤
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