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由姫梛side

今日は啓毅君と朝から お買い物に行く約束をしてた。 それなのに、家から出た瞬間に 車に押し込まれた。 こんなことするのは一人しかいない。 「これはなんの真似ですか?」 運転席にいる初老の男に 抑揚のない声で話しかけた。 「旦那様からの言い付けです」 そんなことは解りきっている。 「そうじゃありません」 まぁいい。 行き先は一つ。 *~*~*~*~*~*~*~*~*~*~* 「着きました」 十八年振りに来た実家。 大方、見合いでもさせる気だろう。 「着いてそうそうあれだが お前には着替えてもらう」 やっぱりそういうことか…… 「申し訳ありませんが 私は見合いする気はありません」 私には家族がいるし、 啓毅君という恋人もいる。 「何を馬鹿なことを言っている‼ お前はまだ若いんだ、再婚して 子どもを作り、儂の跡を継がせるんだ」 魂胆が見え見えよ。 「馬鹿なことを言っているのは あなたの方です‼ 私には紫音という大切な家族がいます。 あの子の親は私しかいません。 どうしても、私に再婚しろと おっしゃるのでしたら、 あの子も一緒に という人をお願いします」 返ってくる言葉の予想はつく。 「そんなことは儂は関係ない‼ あんな男の子どもなど置いてこい‼」 言うと思ったわ。 「何で今更、 私に関わろうとするの? 違うわね、あの人が死んだから これみようがしに 私に接触してきたのよね」 話してるだけでイライラするわ。 「それから、 あなたの理想と価値観を 押し付けるのは やめてくれないかしら。 私の幸せなんてこれっぽっちも 考えていないから あんなことを言えるのよ」 昔からそうだった。 何時だって、自分の理想と価値観を 私に押し付けようとする。 「儂はお前のこの先を」 私のこの先? 「私も自我を持った個人なの。 あなたと私の価値観は違うわ」 笑わせてくれるわ。 私は紫音と啓毅君と龍煌君が いてくれれば幸せよ。 「大体、私の幸せを願っているなら 紫音を置いてこいなんて言わないわ。 だから、十八年前に出て行ったのに 無理やり連れ戻して、 再婚しろですって? 身勝手にも程があるわ‼」 怒鳴るのも疲れて来た頃 外が騒がしくなった。 『母さん‼ 迎えに来た‼』 紫音!? 「由姫梛さん、迎えに来ました‼」 啓毅君も!? 「私には、帰る場所があるので 見合いの話はお受けできません」 そう、私には帰る場所がある。 「十八年前もそうだが、 何故辛い道を選ぶ?」 紫音の父親とは駆け落ちだった。 貧乏ではなかったけど 余裕があったわけでもなかった。 それでも幸せだった。 「あなたには一生涯 わからないでしょうね」 私はバンッと音を出して玄関を開けた。 「紫音、啓毅君 迎えに来てくれてありがとう」 小走りで向かった先、 啓毅君に抱き付いた。 「お帰り、母さん」 私の帰る場所は三人がいる所。 由姫梛side・end

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