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終わりではなく、始まり

三月、天羽学園に来てから新たな出会いばかりだった俺に、初めて別れの時が来た。 「常磐レイラ、!!俺は!本当に君の事を大切な友の一人だと思っている!!それはこれからもずっとだ!!!」 相変わらずの距離感に対しておかしな声量で話す暑苦しい開くん。でも今日の開くんの声は若干涙で震えている。 「俺も開くんのこと、大切な友達だと思ってるよ」 「常磐レイラ、、!!」 「大学でも頑張ってね!」 感極まったのか強く抱き寄せられぎゅっと力を入れられる。震える背中を軽く撫でると、やはり泣いているのか、僅かに振動が伝わってきた。 「開くん。別に卒業したからって会えなくなる訳じゃないんだよ?別れは終わりじゃなくてスタートなんだから。新しい生活のスタート。今よりは会う機会は減るのかもしれないけど、違う場所で違う経験をして、また次会う時が楽しみでしょ?」 別に一生の別れじゃない。会えない所に行く訳でもない。これを機に会わないというなら、それはお互いの関係がそれまでだったということ。逆に、会おうとすればすぐにでも会える。だったらその時までに新しい出会いをし、新しい経験をし、新しい自分になって、お互いの新しい話をいっぱい聞かせ合いたいと俺は思う。 「レイラちゃん良いこと言う!!余計に泣いちゃう!!」 「おのっちどいて!俺もレイ君とハグしたい!!」 「また絶対会おうな〜!」 「今日もレイラ可愛いなもう!!」 周りで会話を聞いていた三年生達が無理やり開くんとの間に入り、代わる代わるハグをしていく。なかなかその人数が多くて気付いたら周りには順番待ちの列まで出来ている。 みんなに押しやられて少し距離の離れた開くんと、目が合った。 「開くん、またね!!」 「!あぁ、また会おう!!」 うん、いつもの笑顔だ。 「レイラ君お疲れさま」 「ただいま〜」 少し離れた所で顔見知りの先輩達に挨拶をしていた凌達と合流する。 「お前こういう時意外とあっさりしてるんだな」 「そう?」 学祭の時みたいに落ち込むかと思ったと言う要。確かに学祭の時はカエラとサハラが帰ってしまうのが寂しかった。でもそれは、会えない寂しさというより、常に横にいた二人が 近くにいない寂しさというか、あるはずの場所にあるはずのものがない違和感みたいなものだ。 「だって俺世界中に友達がいるんだよ?会うのが難しい友達なんていっぱいいるのに、同じ日本にいるなら悲しむ所かラッキーなくらいでしょ」 仕事で色々な国を飛び回っていた十六弥くんについて回っていたから、俺達の友達は世界各地にいる。一番長く住んでいたイギリスにも勿論たくさん友達がいるし、なんなら日本の裏側、ブラジルにだっている。会うのに海を越えて大陸を越えなきゃいけないことを考えると、日本にいるなら何も悲しむことはない。 「そっか、レイラ君って去年の今頃はまだイギリスに居たんだ」 「日本に来ることがまだ決まってないくらいの頃かな」 「ほんと、急だったんだな」 そう、去年の今頃はこうして俺が日本にいるなんて、ましてや学校に通っているなんて想像もしていなかった。楽しそうだなー行ってみたいなーとは思っていたが、何となくそれは夢みたいなものだったのだ。 現実とは違い空想の世界。体験したことが無い分、自分とはかけ離れた生活だと多分頭の何処かで思っていたのかもしれない。

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