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また俺達は歩み出す
ー 3年後 ー
「今日はなんと今話題となっている、モデルで歌手としても活躍している“Layla”さんにお越し頂いています!」
沢山のカメラの前で人気のコメンテーターがこちらに向かってマイクを向ける。高校生時代はカレンちゃんによりストップをされていたメディア活動も一昨年解禁された。勿論本業はモデル。有り難いことにデビューの勢いのまま仕事は増え続け、スケジュールは数ヶ月先まで埋まっている。
「今月はCDもリリースされましたね!私も発売日に買いました!」
「本当に?ありがとうー!」
先日受けたCMでの仕事で歌を歌うシーンがあり、そこで歌った姿が話題となりCDを発売することになった。
元々音楽は得意ではあったが、まさか自分がCDを出す日が来るとは思っていなかった。まあ、これも今後に役立つ経験のうちということだろう。
「昔からよく忘年会とかで無茶ぶりで歌わされてたけど、それが今回のCDデビューにも活かされたのかなぁ〜」
「そうなんですね!忘年会とはよくLaylaさんのお話にも出てくるご家族の方々とのでしょうか?」
「そう!うちの家族はみんな騒ぐの大好きだから、毎回凄く賑やかだよ」
メディアに出るまでは公開されている情報の少なさに様々なモデルの“Layla”像が世間で噂されていた。が、それも一度テレビに出て口を開いてしまえば本来の常磐レイラとしての俺が広まった。
家族や恋人、私生活について聞かれるがままに答えていたので仕方ない。元々変なキャラ付けをするつもりもないので普段通りにしている。
「モデルとしてはとてもクールな顔を見せるLaylaさんですが、実際に話すととても愛嬌があって柔らかいイメージですよね!」
「あ〜よく言われる。黙ってると人形みたいだって」
「それ程に整った見た目をしているということですね!」
終始にこにこと好意的に話しかけてくれる司会者とのやりとりが進んでいく。この司会者は当たり。やたらと下心を含んだ感情を向けてくる人間も多いので、そういった者の相手はぶっちゃけ疲れる。この人にはそれがない。
「そういえば今日はLaylaさんから大切なお知らせがあるとか!」
会話が一区切りしたタイミングで切り出された。まあ一連の流れは全て打ち合わせ通りなんたけど。
そう、今日また俺にとっての新たな夢への第一歩が進み始める。思っていたより早かった。でも早すぎるとは思わない。まだまだスタート地点。
「来年から、撮影が始まる映画で主演をさせてもらうことになりました」
俺と嵐ちゃんの、二人で描いた夢への第一歩が動き始めた。
天羽学園を卒業と同時に十六弥くんの元で働き始めた嵐ちゃん。正解に言うと、十六弥くんの管轄下にある映像業界へと仲間入りした。勿論初めは覚えることばかりで、仕事も雑用と言われるようなことだらけ。十六弥くんの紹介だからといって特別扱いはない。
そんな中で元々の要領の良さで仕事をどんどん覚え、自ら進んで学んでいく嵐ちゃん。そしてそれは勿論現場で働く人達の目にもしっかりと映っていた。TOKIWAはしっかりとその人の力を見て判断してくれる場である。簡単な手伝いから現場でも重要な仕事を少しづつ任されるようになり、その仕事でも周囲の期待以上の働きをみせた。
それが、世界的巨匠とも言われ数多くの名作を世に生み出した映画監督の目にも止まった。
「その映画で監督を務めるランタロウ・ユウキさんは、今回が初の撮影になるとお聞きしましたが」
「うん。俺も初めての主演だし二人の初作品になるね」
3年前にこの夢を語ったあと、お互いにやるべき事を考えた。嵐ちゃんはまず技術やセンス、知識を現場で学べるだけ学び自分のものへとすること。俺は演技を身につけることは勿論、モデルの仕事での飛躍。そこを疎かにしてしまっては元も子もない。中途半端だけは絶対に嫌。
どんな映画を作りたいか、そのことについてはこの3年で何度も話した。様々な人に意見も貰ったし、色々な現場に顔を出し盗める知識は拾い集めた。ここから先は頭の中だけではどうにもならない部分。
「やっぱり初めてだから、きっと途中で問題や難題がいくつもあると思う。でもね、それもひっくるめて最高の作品になるようがんばるよ」
「とても楽しみです!!」
不安もあるけど期待の方が大きい。さあ、どんな未来が待っているのだろう。でも、何があったとしても二人なら乗り越えていける。
ねぇ、嵐ちゃん
これからも色んな事に二人で挑戦していこう。
〜 fin 〜
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