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最期に見るのは美しき化け物

幽暗な暁天にうかぶ月のような 貴方の冴えた瞳を 瞑る瞼の裏に刻んで─── 酷い水害に耐えかね、村から生け贄を出すことになった。 親兄弟のない俺がその役を担う事になり、晴れ着をきせられ龍神窟(りゅうじんくつ)へとやって来た。 この龍神窟には水神様(すいじんさま)がいて、生け贄が身を投げれば水害が収まると言われている。 「キサラ、すまん・・・村のために・・・」 「(おさ)、みんな、身寄りのない俺をここまで育ててくれて・・・ありがとう」 良い村なんだ。 みんな優しくて、助け合って、この水害も何とか乗り越えようとしたんだ。 でも、橋も畑も流され、山がえぐれて家がのまれて・・・。 もう、これしか、ないんだ。 村のため、みんなのために、俺が役に立てるならこれでいい。 俺は、生け贄に志願した。 「─────っ」 みんなが項垂(うなだ)れ、涙を流してくれた。 だから俺は躊躇(ためら)う事なく、龍神窟へと飛び込んだ。 ───どぼん、と水に落ちる。 その後は、身体を貫く冷たい水に、音もなくただ沈んでいった───。 『随分と気前良く飛び込んだじゃねえか』 頭の中に声が響く。 誰・・・もしかして水神様・・・? お願いです、俺はどうなっても構わないから、村を助けてください。 『いいだろう。その代わり、お前は俺のもんだ。逆らうなよ』 ありがとうございます。 水神様の仰せの通りにいたします。 『目を開けろ』 言われた通り、そっと目を開ける。 暗い水の底・・・いや、底なんて見えない冷たい闇の中、俺の目の前に現れたもの。 彼は、銀の光を放つ、美しい化け物だった。 『俺を(おそ)れるな』 はい、水神様。 『お前の名は』 キサラと申します。 『キサラ』 水神様は白銀の髪と瞳をして、白い肌には暗闇で淡く光る鱗があった。 頭には(にれ)の枝の様な二本の角が、後ろに向かって伸びている。 俺の名を呼んだ口元には、鋭く尖った牙が見えた。 それを見て、ふと我に返る。 生け贄として龍神窟へ飛び込んだ俺は今、息が出来ないのだった。 水の冷たさに麻痺していた感覚が戻り、苦しさにまた目を瞑って、両手で口を塞ぐ。 『なんだ、息が出来ないのか。ヒトというのは不便なもんだな』 そう言って、水神様が俺の両手首を掴み、口元を抑えていた掌を退かしてしまう。 俺は堪らず、口を開き(あわ)を吐いた。 そして大量の水が肺に流れ込む。 暴れそうになる俺の顎をすくい、水神様が(おもむろ)に口付ける。 「んぐ・・・ん・・・ぅ・・・んふ・・・っ」 唇を解放され、少し呆けていると、自分が呼吸をしているのに気が付いた。 そんな俺に、水神様がにたりと笑って言う。 『これで少しはましだろう?』 「ぁ・・・はい、ありがとうございます」 呼吸が出来るようになったと同時に、なんだか水の冷たさも感じなくなった様な気がする。 まるで、温度のない空間に、ゆらゆら漂っている感覚。 『お前の願い・・・村を救って欲しい、だったか』 「はい。どうか村を・・・」 『よし、叶えてやったぞ。ほら、見てみろ』 そう言って、水神様が空中、いや水中に輪を描く。 描いた輪は大きな沫になり、その沫の中に晴天の村が見えた。 村の皆は、額の汗を拭いながら、笑顔で畑仕事に精を出し、新しい小屋を建てている。 ああ、良かった。 これでまた、生活が出来るようになる。 「ありがとうございます水神様・・・っ!」 『では、次は俺の番だ。キサラ、お前を喰おう』 驚きはしなかった。 俺は生け贄なのだから。 痛くとも、苦しくとも、逆らうなと言われたからにはじっと耐えよう。 村は救われた。 水神様は俺の願いを叶えてくださった。 神に喰われるのだ、惨めとは思わない。 『脱げ』 「・・・はい」 清めた体には、晴れ着を一枚着ているのみだった。 帯をほどけば、するりと晴れ着が肌を離れていく。 手放すと、ふわりと闇に消えていった。 『甘そうな身体だな』 「ん・・・っ」 俺の腰を抱き寄せ、首筋に舌を這わせる白銀の化け物。 首を折られるのだろうか。 ならばいっそ楽でいい。 「・・・ぁ、ん・・・っ、んぁ・・・っ」 首から鎖骨、胸へと舌が這う。 悲鳴を上げぬよう閉じた口から声が漏れる。 手の甲を口元に宛て、それ以上みっともない声を出さないようにした。 『声を我慢するな。好きなだけ鳴けばいい』 そんな・・・。 とても聞くに耐えない恥ずかしい声を、我慢するなと言われてしまった。 逆らわないと約束した後で。 「・・・んふ・・・ぁっ、・・・ふぁあっ!」 水神様が俺自身に舌を這わせた。 まさか、そこから喰うのだろうか。 よりによって残酷な・・・。 「ひあぁっ・・・ゃ、だぁ・・・っ・・・ひっ・・・」 『何だ、今度は泣き出したか。まあ、好きなだけ鳴けとは言ったが』 気付けば水神様の言う通り、俺はぼろぼろと涙を流していた。 流すとは言っても、沫の様に浮かんでは闇に消え入ってしまうのだが。 『その泣き顔も悪くないな。』 「・・・ひぃ───っ」 水神様は俺の両脚を持ち上げ、今度は後孔に舌をねじ込んだ。 長く太い舌で、内臓を(ねぶ)られる。 恐怖に身体ががくがくと震え、声も出なかった。 『指だと爪で胎内(なか)を傷付けてしまうからな。蕩けてきたぞ。ほら、力を抜け』 「・・・っ、ぅ・・・ぁ・・・」 内臓から喰われるのかと覚悟していたが、水神様は只、孔を舐めているだけらしい。 味見だろうか・・・。 「ぁ・・・っ、ん・・・ゃあっ」 『いい声出せるじゃねえか』 舌に奥まで(おか)され、内側(なか)から撫でられると、背筋を甘い痺れが走る。 先ほど舐められ濡れそぼった俺自身が、びくびくと勃ち上がっているのがわかる。 『気に入ったか』 「ん・・・んぁ・・・っ、・・・ぁう・・・ん」 ぐりゅぐりゅと入り口を責められ、頭に(もや)がかかった様に呆けてしまう。 だらしなく開いた口から、涎が小さな沫になって消えていく。 無意識に、腰が揺れていた。 『俺に犯されるのは恐いか』 オカサレル・・・。 そうか、それで孔を押し広げていたのか。 その牙で噛み千切るのでなく、俺を女にする気なんだ。 でも・・・。 「犯して・・・食べるのですか?」 『そうだ。生け贄は喰う。神の力を貸した、その対価として』 後孔に熱い(くさび)があてがわれた。 鋭い銀の瞳に見据えられ、抵抗など出来ない。 それでも、この化け物は、俺の返事を待っている様だった。 何故だろう・・・恐怖は最初からなかった。 それどころか。 (いとお)しい。 銀の瞳が、銀の髪が、淡く光る白い鱗が。 この、白銀の、美しい化け物が。 「貴方の・・・俺は、貴方のものです」 水の冷たさを忘れた身体に、焼けるように熱い楔が穿たれる。 声にならない悲鳴を上げながら、それでも畏れていないと伝えたくて、銀の瞳を見つめ返していた。 少し苦しそうな銀の瞳が、ますます愛しい。 最奥まで熱を埋めて、水神様が息をつく。 触れそうに近いその頬に、断りもなく手を触れてしまった。 冷たくも温かくもない、鱗のある頬を撫でる。 その無い熱さえ愛しい。 「ぁっ、ひぁ・・・っ、ぁあうっ、んぁっ」 挿抜が始まると、どうにも我慢できない嬌声が上がる。 水中だというのに、ぐちゅぐちゅといやらしい水音が耳に響く。 こんなに深くまで抉られているのに、もっと、もっと奥まで欲しいと思ってしまう。 「あんっ、ぁあ・・・っ、すぃ、じん・・・さまぁ・・・っ」 『クオンだ。キサラ、俺の名を呼べ』 「あっ、あ・・・っ、クオ、んっ、さまぁっ」 水神様の、誰も知らない本当の名を、呼びながら果てる。 クオン様も、俺のいちばん深いところで、熱を放った。 そして・・・。 首筋に、神の牙が食い込むのを感じながら、闇に揺蕩(たゆた)う白銀の美しい髪を見る。 これと同じ色の、あの瞳を想いながら。 瞼を閉じた───

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