1 / 2
最期に見るのは美しき化け物
幽暗な暁天にうかぶ月のような
貴方の冴えた瞳を
瞑る瞼の裏に刻んで───
酷い水害に耐えかね、村から生け贄を出すことになった。
親兄弟のない俺がその役を担う事になり、晴れ着をきせられ龍神窟 へとやって来た。
この龍神窟には水神様 がいて、生け贄が身を投げれば水害が収まると言われている。
「キサラ、すまん・・・村のために・・・」
「長 、みんな、身寄りのない俺をここまで育ててくれて・・・ありがとう」
良い村なんだ。
みんな優しくて、助け合って、この水害も何とか乗り越えようとしたんだ。
でも、橋も畑も流され、山がえぐれて家がのまれて・・・。
もう、これしか、ないんだ。
村のため、みんなのために、俺が役に立てるならこれでいい。
俺は、生け贄に志願した。
「─────っ」
みんなが項垂 れ、涙を流してくれた。
だから俺は躊躇 う事なく、龍神窟へと飛び込んだ。
───どぼん、と水に落ちる。
その後は、身体を貫く冷たい水に、音もなくただ沈んでいった───。
『随分と気前良く飛び込んだじゃねえか』
頭の中に声が響く。
誰・・・もしかして水神様・・・?
お願いです、俺はどうなっても構わないから、村を助けてください。
『いいだろう。その代わり、お前は俺のもんだ。逆らうなよ』
ありがとうございます。
水神様の仰せの通りにいたします。
『目を開けろ』
言われた通り、そっと目を開ける。
暗い水の底・・・いや、底なんて見えない冷たい闇の中、俺の目の前に現れたもの。
彼は、銀の光を放つ、美しい化け物だった。
『俺を畏 れるな』
はい、水神様。
『お前の名は』
キサラと申します。
『キサラ』
水神様は白銀の髪と瞳をして、白い肌には暗闇で淡く光る鱗があった。
頭には楡 の枝の様な二本の角が、後ろに向かって伸びている。
俺の名を呼んだ口元には、鋭く尖った牙が見えた。
それを見て、ふと我に返る。
生け贄として龍神窟へ飛び込んだ俺は今、息が出来ないのだった。
水の冷たさに麻痺していた感覚が戻り、苦しさにまた目を瞑って、両手で口を塞ぐ。
『なんだ、息が出来ないのか。ヒトというのは不便なもんだな』
そう言って、水神様が俺の両手首を掴み、口元を抑えていた掌を退かしてしまう。
俺は堪らず、口を開き沫 を吐いた。
そして大量の水が肺に流れ込む。
暴れそうになる俺の顎をすくい、水神様が徐 に口付ける。
「んぐ・・・ん・・・ぅ・・・んふ・・・っ」
唇を解放され、少し呆けていると、自分が呼吸をしているのに気が付いた。
そんな俺に、水神様がにたりと笑って言う。
『これで少しはましだろう?』
「ぁ・・・はい、ありがとうございます」
呼吸が出来るようになったと同時に、なんだか水の冷たさも感じなくなった様な気がする。
まるで、温度のない空間に、ゆらゆら漂っている感覚。
『お前の願い・・・村を救って欲しい、だったか』
「はい。どうか村を・・・」
『よし、叶えてやったぞ。ほら、見てみろ』
そう言って、水神様が空中、いや水中に輪を描く。
描いた輪は大きな沫になり、その沫の中に晴天の村が見えた。
村の皆は、額の汗を拭いながら、笑顔で畑仕事に精を出し、新しい小屋を建てている。
ああ、良かった。
これでまた、生活が出来るようになる。
「ありがとうございます水神様・・・っ!」
『では、次は俺の番だ。キサラ、お前を喰おう』
驚きはしなかった。
俺は生け贄なのだから。
痛くとも、苦しくとも、逆らうなと言われたからにはじっと耐えよう。
村は救われた。
水神様は俺の願いを叶えてくださった。
神に喰われるのだ、惨めとは思わない。
『脱げ』
「・・・はい」
清めた体には、晴れ着を一枚着ているのみだった。
帯をほどけば、するりと晴れ着が肌を離れていく。
手放すと、ふわりと闇に消えていった。
『甘そうな身体だな』
「ん・・・っ」
俺の腰を抱き寄せ、首筋に舌を這わせる白銀の化け物。
首を折られるのだろうか。
ならばいっそ楽でいい。
「・・・ぁ、ん・・・っ、んぁ・・・っ」
首から鎖骨、胸へと舌が這う。
悲鳴を上げぬよう閉じた口から声が漏れる。
手の甲を口元に宛て、それ以上みっともない声を出さないようにした。
『声を我慢するな。好きなだけ鳴けばいい』
そんな・・・。
とても聞くに耐えない恥ずかしい声を、我慢するなと言われてしまった。
逆らわないと約束した後で。
「・・・んふ・・・ぁっ、・・・ふぁあっ!」
水神様が俺自身に舌を這わせた。
まさか、そこから喰うのだろうか。
よりによって残酷な・・・。
「ひあぁっ・・・ゃ、だぁ・・・っ・・・ひっ・・・」
『何だ、今度は泣き出したか。まあ、好きなだけ鳴けとは言ったが』
気付けば水神様の言う通り、俺はぼろぼろと涙を流していた。
流すとは言っても、沫の様に浮かんでは闇に消え入ってしまうのだが。
『その泣き顔も悪くないな。』
「・・・ひぃ───っ」
水神様は俺の両脚を持ち上げ、今度は後孔に舌をねじ込んだ。
長く太い舌で、内臓を舐 られる。
恐怖に身体ががくがくと震え、声も出なかった。
『指だと爪で胎内 を傷付けてしまうからな。蕩けてきたぞ。ほら、力を抜け』
「・・・っ、ぅ・・・ぁ・・・」
内臓から喰われるのかと覚悟していたが、水神様は只、孔を舐めているだけらしい。
味見だろうか・・・。
「ぁ・・・っ、ん・・・ゃあっ」
『いい声出せるじゃねえか』
舌に奥まで侵 され、内側 から撫でられると、背筋を甘い痺れが走る。
先ほど舐められ濡れそぼった俺自身が、びくびくと勃ち上がっているのがわかる。
『気に入ったか』
「ん・・・んぁ・・・っ、・・・ぁう・・・ん」
ぐりゅぐりゅと入り口を責められ、頭に靄 がかかった様に呆けてしまう。
だらしなく開いた口から、涎が小さな沫になって消えていく。
無意識に、腰が揺れていた。
『俺に犯されるのは恐いか』
オカサレル・・・。
そうか、それで孔を押し広げていたのか。
その牙で噛み千切るのでなく、俺を女にする気なんだ。
でも・・・。
「犯して・・・食べるのですか?」
『そうだ。生け贄は喰う。神の力を貸した、その対価として』
後孔に熱い楔 があてがわれた。
鋭い銀の瞳に見据えられ、抵抗など出来ない。
それでも、この化け物は、俺の返事を待っている様だった。
何故だろう・・・恐怖は最初からなかった。
それどころか。
愛 しい。
銀の瞳が、銀の髪が、淡く光る白い鱗が。
この、白銀の、美しい化け物が。
「貴方の・・・俺は、貴方のものです」
水の冷たさを忘れた身体に、焼けるように熱い楔が穿たれる。
声にならない悲鳴を上げながら、それでも畏れていないと伝えたくて、銀の瞳を見つめ返していた。
少し苦しそうな銀の瞳が、ますます愛しい。
最奥まで熱を埋めて、水神様が息をつく。
触れそうに近いその頬に、断りもなく手を触れてしまった。
冷たくも温かくもない、鱗のある頬を撫でる。
その無い熱さえ愛しい。
「ぁっ、ひぁ・・・っ、ぁあうっ、んぁっ」
挿抜が始まると、どうにも我慢できない嬌声が上がる。
水中だというのに、ぐちゅぐちゅといやらしい水音が耳に響く。
こんなに深くまで抉られているのに、もっと、もっと奥まで欲しいと思ってしまう。
「あんっ、ぁあ・・・っ、すぃ、じん・・・さまぁ・・・っ」
『クオンだ。キサラ、俺の名を呼べ』
「あっ、あ・・・っ、クオ、んっ、さまぁっ」
水神様の、誰も知らない本当の名を、呼びながら果てる。
クオン様も、俺のいちばん深いところで、熱を放った。
そして・・・。
首筋に、神の牙が食い込むのを感じながら、闇に揺蕩 う白銀の美しい髪を見る。
これと同じ色の、あの瞳を想いながら。
瞼を閉じた───
ともだちにシェアしよう!