30 / 38

第30話

 溺愛と言う言葉は、敏樹の崇に対する振る舞いにぴったりかと思われたが。 (可愛い妹をたぶらかした僕にこそ、冷たく当たりそうだけどな)  しかし、現実はその逆だ。  敏樹は何も、崇に対して体だけを求めたわけではなかった。  宿題を見てくれたり、オーディオでレコードを聴かせてくれたり。  小さくなった服を、お下がりにくれたりもした。 (今日、結愛ちゃんが心配してた、って言ってみよう)  水曜日の放課後、崇はいつものように敏樹とタクシーに乗った。

ともだちにシェアしよう!