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第1話
去年は思い出深いバレンタインだった。バレンタインの少し前に、付き合って初めてケンカした。遠距離恋愛ゆえに、一度こじれてしまったら、修復するにも骨が折れる。一時は破局の危機となるほどだったが、バレンタインの日に仲直りができた。ケンカする前よりも絆は深まり、今年も無事二人で二度目のバレンタインを迎ようとしている。
去年はそんな事情で、直前に適当なチョコレートを買って渡すことになってしまったが、今年はそうはいかない。リョウは二月に入るや否やバレンタイン色に染まるデパートの催事場に来ていた。
お気に入りの、すぐ完売してしまう有名パティシエ監修の生チョコレート。これまでに付き合っていた人全員に、一度は贈ったものだ。
めでたくお目当ての商品と出会えた。最後の一個のようだ。危なかった、とひったくるようにそのチョコレートを手中に収めた。ほっとして振り返ると、しょんぼりとした女性の姿。ちょうど同じタイミングで最後の一個をゲットしようとしたものの、リョウの素早さにすんでのところで負けてしまったようだ。
自分と同じく、会社帰りであろうその姿。バレンタインまで、もう土日や祝日はないし、この子にもこのチョコレートに特別な思い入れがあるのかもしれない。だいたいなんで男が買うねん、と思っているかもしれない。
「これ……よかったら」
「え、でも」
女性は一瞬だけ戸惑う様子を見せたが、その後すぐに嬉しそうな表情に変わった。
デパートにはほかにも山のようにいろんなチョコレートが所狭しと並んでいる。ざっと見て回ったが、ピンと来るものはなかった。
ま、いっか。
あの子は一世一代の大告白のためにあのチョコが必要だったのかも。
俺らはもうそんなんなくても、充分愛しあってるから。
そう考えると、チョコを手に入れられなかったことは大したことではないように思えてきた。むしろ人助けをしたような清々しい気持ちにさえなった。
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