3 / 3
第3話
「去年は特殊なバレンタインやったからなあ」
くしゃりと破顔するリョウを、苦虫を噛み潰したような顔で見るアヤ。
「もう忘れた」
無愛想に一言吐き捨ててぷいと顔を背ける恋人を、リョウは愛でるように見つめる。
「でもこうやって、二回目のバレンタインを一緒に過ごせて、嬉しい」
もともとどうして惚れたのか、互いに首を捻ってしまう二人。いつ別れてもおかしくないような関係だった。それでもぶつかって、擦り合わせ、歩み寄り、譲り合って、今またこうして一緒にいる。そのことが幸せでたまらない。月日が経てば愛は冷めてゆきがちだが、この二人はチョコレートを溶かしてしまいそうな熱々ラブラブっぷりだ。
―――否、熱量が凄いのは一人だけだと訂正する。
二人並んでソファに座り、チョコレートをシェアする。
「うんまぁ~!ここのチョコほんっま好きやねん」
リョウの顔がだらしなく緩み、両手を頬に添えて悶えている。
実は甘いものがそれほど好きでないアヤは、ちびちびとスローペースでチョコレートをかじっていた。そうすれば自動的に、ハイペースで幸せそうにチョコレートを頬張るリョウの取り分が多くなる。
「来年も一緒に過ごせるかなあ」
「うん」
俺も今ちょうど同じこと思ってた、とは口にせず、アヤはただ僅かに目を細めた。
「その前にさぁ、去年あげたチョコのお返し、もらってないんやけど」
「もう忘れた」
【おわり】
ともだちにシェアしよう!