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溺愛男子と天然クン①
「ほんと驚いたよ! まさかこの長髪のおじさんが犯人だったなんてねぇ!」
パンフレットを買おうと列に並んでいる最中、樹 は子供みたいにいきなりそう言った。
俺たちのすぐ横には、今まさに映画館で観てきたホラーサスペンス作品の巨大ポスターが飾られている。その中に、長髪のおじさんなんて一人しかいない。
前後に並んでいたカップルが、樹の声に釣られてそのポスターをじっと見つめる。ものすごく微妙な空気が流れた。
あぁ! 目の前の女の人、めちゃくちゃ落胆している! あからさまに虚無な顔してるじゃないか!
「樹、ちょっと黙っててくれる?」
「えーっ、だって璃都 もびっくりしたでしょ? 途中まで主人公の親友が怪しいって思ってたでしょ? でもまさか行方不明になるなんて」
「よし樹、ここは俺が並んどいてやるから、お前はそこのグッズ売り場を見てなさい。たくさん置いてあるみたいだぞ」
「あ、ほんとだ! ちょっと行ってくんね!」
列に一人並ぶ俺は、居心地の悪さを感じながらもなんとかその場で耐える。
樹は昔からあんな調子でちょっと変わり者だ。中高と一緒の俺は、今じゃ樹のお世話係り。危なっかしいところはフォローしているつもりだ。だから今日も、観たい映画があると前にぽつりと言っていたので、一緒に来てやったのだ。俺じゃないと、樹の面倒は見切れないからな。
無事にパンフを購入し、近くのカフェで一休みをする。
樹はまたしてもやらかした。
「えっ、俺アイスって言ったっけ?」
「言ってたよ! 俺は覚えてるぞ!」
テーブルに置かれたプラスチックカップを見ながら難しい顔をしてるけど。
店の外は白銀の世界だっていうのに、氷がビッシリ詰まったアイスコーヒーをずず、と啜る樹を見ながら、俺はため息を吐いた。
「あっ、いま『こいつはほんと馬鹿だよなぁ』って思ったでしょ?」
「そういうのは敏感なのにな。お前の頭の中見てみたいよ」
「注文する時、ちょっとぼーっとしてただけだよ」
「いつもぼーっとしてんだろ」
「もうっ! 俺、本当に悩んでるのに!」
いつもみたいに笑ってくれると思いきや、今日の樹は不貞腐れている。
なんだ? そんなに頬を膨らませて。
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