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溺愛男子と天然クン②
「ん? そんな空っぽの頭で、何に悩んでるんだ?」
俺が訊けば、樹はスマートフォンをこちらに突きつけてきた。そこには、有名アミューズメントパークのお城の画像。そして樹がすばやくスワイプさせれば、今度は絶叫系アトラクションが多数あることで人気の遊園地の画像が出てきた。
「この二つだったら、どっちに行きたい?」
なんだ、今度は遊園地に行きたいのか。
それならアミューズメントパーク一択だな。なんせ俺は絶叫系アトラクションが苦手だから。
「俺はこっちだな」
「んー、だよねー。じゃあこっちにしようって連絡しとこ」
そのままスマホを操作し始める樹の手を、慌てて止めた。
「ま、待て。誰と行く予定なんだ?」
「伊藤さん」
「はっ……伊藤さんってあの伊藤さんっ⁈」
そうだよー、と言ってまた操作しようとする樹から、スマホを取り上げた。伊藤さんって、コンビニでバイトしている樹とよく一緒にシフトに入っている大学生だ。まさかそこまで親密になっていただなんて。しかも場所が……それってほぼデートだろ!
「ねぇ何? 璃都、スマホ返してよ」
「お前はその……好き、なのか? 伊藤さんのこと」
「え? まぁ、好きだけど」
「それって、あれか? 恋人にしたい……って意味で?」
あぁ、情けない。なんで俺はこんなに声が震えているのだ。
「うーん、伊藤さんはいい人だけど、恋人にしたい、までは思わないな。仲良しの先輩って感じー」
はぁっ、と思い切り息を吐き出した。ずっと息を止めていたので酸素が足りない。
「ならなんで、そんな場所に行くんだよ」
「誘われて。樹くんとだったら楽しめそうだって言われて」
「ダメだ。お前、伊藤さんに絶対に迷惑掛けるから」
「えー、大丈夫だよ。ちゃんとするって」
「ダメだって言ってんだよ」
強めの声で言うと、樹は心外だと言わんばかりの表情で睨んできた。
「璃都っていつもそうだよね。こいつは馬鹿だから、俺が見てないとって顔してさ。俺を見下して、優越感に浸ってるんだよね」
思ってもみなかったことを言われ、俺は茫然とする。
もしかして俺は、こいつを知らず知らずの内に傷つけていたのか⁈
「違う、そんなことは……」
「だって、樹の隣は俺じゃないとなってよく言ってくるじゃん。俺、そんなに頼りない? 子供っぽいの?」
「ち、ちがくて」
「……そんなに俺のことが心配なら、一生俺の面倒見てよ」
「……は?」
「なーんちゃって。ふふ、そんなに驚かなくても」
「言ったな?」
俺はテーブルを挟んで向かいの席から樹の手をがっしり掴む。
斜め後ろの席の女子がガン見してこようが、関係ない。
「そうだよ。お前は、俺の隣にいればいいんだよ。そしたら……人生、楽しいはずだから」
「……うん」
きょとんとさせた顔をして、樹は頷く。
俺はそのままの勢いで、顔を熱らせながら早口で伝えた。
「遊園地でもカラオケでもイルミネーションでも、行きたいところあったら俺と行こう。たぶん、いや絶対! 俺と行けば楽しいから!」
「……分かった」
その後の会話はなく、カフェを出てからもお互い無言で歩いた。
新雪の上にわざと足跡を付けて歩く樹を見て、俺は後悔に苛まれていた。
あんなことを言っても、樹を困らせるだけなのに。
今すぐここをごろごろ転がって、だるまになりたい。
そう願っていたのは俺だったのに、気づけば樹がごろごろ転がっていた。
「ちょ、樹? 大丈夫?」
「あー。うん。顔が熱かったからちょうどいい」
髪も顔も体も雪まみれ。
そんな樹は、屈託なく笑った。
「勇気を出して良かった」
「はい?」
「心臓すっごくバクバク鳴ってたんだから。『一生俺の面倒見てよ』って言う時」
しばらくしてから、俺も雪の上をごろごろ転がった。
君はほんと、しょうがない奴です。
だから君の隣は、ずっと俺でいさせてください。
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