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第3話学校でも練習熱心で

   ◇ ◇ ◇  家がお隣さんの圭次郎は、学校でも同じクラスで隣の席だった。  一番後ろの窓側の席へ座ることになって、いや、なんでそこも隣なんだよ……と当初はげんなりしていた。けど、今はむしろこの偶然か学校側の作為か分からない采配に感謝している。  授業中、退屈な時に視界の横で圭次郎を見ると、黒板と授業なんかそっちのけで机に視線を落とし、何やら指をパタパタと動かしたり、小さく唇を動かして何かを話している。  隣に座る俺だから分かる特権。授業の文句でも言ってるのかと聞き耳を立ててみれば、どうにか拾える言葉に吹き出しかける。 「……汝……深淵の闇……我に従え――」  どう聞いても中二病臭濃厚な単語のオンパレード。実は王子様コスをしていなくてもキャラになり切っていることが分かって、授業どころではなくなってしまった。しかも、 「……使えんな……もう一度探せ……所詮は下級の精霊か――」  見えない何かになんか話しかけてる時もある。え、セリフの練習してんのかよ? きれいなツラに似合わない低い声出して、お前、王子キャラは王子キャラでも、魔界の王子様設定だったりすんの? 妙に迫力あるし、板についてる……どれだけ練習してきたんだよ?! 上手いって、マジで。  転校前の学校でもこんな感じで毎日ブツブツと練習してきたのかと思うと、スゲーな……と心から感心してしまう。衣装に袖を通せば外観は完璧に王子。その格好でこの見事なまでのなり切りを披露する姿を想像したら、あまりのガチぶりに妙な感動を覚えてしまう。  ああ、見てみてぇ……庭で夜練習している時、直に覗いてみよう。圭次郎でこれなんだから、兄ふたりはさらに力が入っていそうだなあ。大人の本気コス、拝んでみたい!  ――と、授業中はいつもこんな調子になってしまった。  退屈してるヒマはなくなり、圭次郎ウォッチングは妙な充実感でいっぱいだった。  ただ、今度のテストは点数ボロボロだろうなあ、という予感に内心焦りはする。  お隣さんの観察はほどほどに……というのは分かっていたが、膨らんでいくばかりの好奇心に勝てるハズがなかった。

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