90 / 121
第50-1話輝石の力
夜になっても俺がベッドでゴロゴロしていると、
「やっていることが昼間とまったく変わってないな、太智」
なんの前触れもなくケイロが部屋に入ってきて、俺はビクッと肩を跳ねさせる。
「急に入って来るなよ! せめて一声かけてくれ。親しき仲にも礼儀ありって言うだろ?! お前だって俺が不意打ちで部屋に来たら困らないか?」
「驚きはするが、歓迎するな。お前から積極的に夜這いへ来てくれるのだからな、喜んで相手をするぞ」
「なんでもかんでも夜の営みに繋げるなぁ……どうしてこんなにヤりまくってるのに、まだ身の危機を感じなくちゃいけないんだよ」
筋肉痛を全身へ響かせながら体を起こした直後の問題発言に、俺はベッドの上でうな垂れる。そして密かにケイロが部屋へ来た途端、いつも通りの空気になったことを驚く。
昼間に悠から教えてもらった話を延々と考えて、ついさっきまで引きずって胸が重たくなっていたのに。あっという間に元の調子を取り戻して、何事もなかったようにやり取りできてしまう。
まだ出会って二か月が経過するかしないかの期間なのに、もう夫婦の空気が板についている。
ケイロについて知らないことが山ほどあるっていうのに……。
俺は頭を掻きながらケイロへ尋ねる。
「今日はどこへ行ってたんだ? もしかして、あっちの世界?」
「ああそうだ。面倒なことに色々と報告しなくてはいけなくてな……奪われた百彩の輝石は、我が国にはなくてはならない秘宝。早く取り返さなくては、これからの行事や国の大事にも影響が出てくる」
「百彩の輝石ってそんなにすごいものなのか?」
「ああ。遥か昔、精霊王が親愛の印にと祖先へ贈ったものらしい。それを覇者の杖にはめ込めば、その杖を手にした者はすべての精霊を使役し、あらゆる魔法を可能にする。手にしたものが世界の破滅を願えば、それも叶えてしまう……それだけ危険な石だ」
ともだちにシェアしよう!