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第66話ひとつだけ変わったこと

   ◇ ◇ ◇  改めてケイロと結婚してしまった俺は、今まで慣れ親しんだ世界を離れて新世界へ――行くと思ってたけど、引き続きこっちで学生生活を送ることになった。  理由は色々あるみたいだが、一番の理由は百彩の輝石を回復させるために、まだしばらくこっちで力を充填する必要があるから。  輝石は今、マイラットが舞野先生として勤務する司書室で、有名な野球選手のサインボールの中で休んでいる。  そしてケイロたちはマイラットを見張るため、引き続き校内関係者として過ごし続けることになった。  てっきり多忙な日々が始まると思っていたのに、蓋を開ければ今までの日常が続くだけ。 肩透かしを食らった気分だったが、最後まで高校生活は楽しめるらしいので、それは素直に嬉しかった。  ただ、ひとつだけ変わったことがある。  授業中に精霊を使役してマイラットの捜索をしなくても良くなったケイロは、よく寝るようになった。  アシュナムさんの授業の時は露骨に寝る。他の先生の時でも、教科書を見るフリをして寝ている。さすがに心配になって、休み時間の時に尋ねてみた。 「大丈夫か百谷? 寝る暇がないほど忙しいのか?」  俺の声掛けに、ケイロはニヤリと笑いながら耳打ちして教えてくれた。 「夜まで力を温存させているだけだ。明日は休み……今夜は楽しみにしていろ」  目的はそれかぁぁっ! あと、学校で近づくな……体が火照るからぁ……。  心配して損した。ケイロが再婚して嬉しいのは分かるけど、もういい加減に落ち着いて欲しい。あと、俺の体がいつまで経ってもケイロに近づかれると反応して辛い。いつか教室でボロを出して、みんなから変人認定されそうで怖った。  俺たちのやり取りをおかしく思うヤツはいなかったと思う。  ただ、事情を知る悠だけは、大変だなあ……という同情の眼差しを送っていた。  昼休みが終わって、午後の授業が始まる。  隣の席で開始早々ケイロが欠伸をして、目を閉じて眠り出す。  毎度お前に本気出されたら、俺の体、もたないんだけど。  ……今度の期末テスト、ヤバいんだけど……でも、応えてやりたいんだよなあ。  ケイロからのが移ったのか、俺も欠伸を漏らしてしまう。  もう似たもの夫婦になっちまおうかと、俺は机に頬杖をついてまぶたを下ろした。

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