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第35話 真っ暗

 公園の奥の荒れ地に着いた途端、さやかはこちらを振り向いた。 「……話っていったい何ですか?」 「やぁね、大和くん。そんなにトゲトゲしなくてもいいじゃない」 「さっさと話してください。伊央利のことで話っていったい何なんですか?」  初めて来た荒れ地は思ったよりも殺伐としていて、こんな場所で嫌いな相手と対峙しているなんて俺には我慢ならない。  なのに、さやかはなぜかとても楽しそうだ。  そしてそのピンクの唇がとんでもないことを告げる。 「大和くん、伊央利とキスしたでしょう?」 「なっ……!?」 「あー、やっぱり図星ね。ダメよー。あなたたちは兄弟なんだから、そんなことしちゃ」 「――――」  俺はさやかに言われたことがショックで頭が真っ白になる。 「私には分かるわ。大和くんが伊央利にお兄さん以上の感情を持っていること。でもそれは許されないことなのよ」 「……そんなことさやかさんに言われたくありません」  やっとの思いでそれだけを口にした。  許されない関係だってことは俺たちが一番よく知っている。  それでも俺は伊央利が好きで、伊央利も俺を好きでいてくれている。  さやかなんかに何が分かるって言うんだ。 「あら、開き直るのね。大和くんってかわいい顔して意外と図太いんだ。まあ、お兄ちゃんとキスしちゃうくらいだから。ちょっと……随分屈折してるんでしょうけど」  さやかの言い方が余りにも憎たらしかったうえ、このときの俺は平常心を失っていた。  だから、俺はつい言わなくてもいいことまで言ってしまったんだ。 「俺たちが何をしようとさやかさんには関係ない」  その言葉を放った瞬間、さやかの顔から揶揄うような笑みが消えた。  勘のいい彼女は俺の言葉から色んなことを悟ったようで。 「……って、待ってよ。あなたと伊央利、もしかしてキス以上もしてるわけ……?」 「…………」  本当ならここで、俺と伊央利の関係を否定するべきだろう。  だけど、俺には嘘はつけなくて。  つい顔を背けてしまった。  これじゃ二人の只ならぬ関係を認めたようなものだ。  どれくらいの時間、俺とさやかの間に沈黙が流れただろうか。  荒れ地に吹く風が冷たく頬にあたる。 「……っくしょう」  不意にさやかが低く唸るような声を出した。  今まで聞いたことのない類のさやかの声音に俺は驚いて彼女の方を見る。  さやかは見たことがないくらい怖い顔をしていて、その目に青い炎のようなものが走ったような気がした。  そして、次の瞬間、俺は腹部にものすごい衝撃を受け、目の前が真っ暗になった。

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