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第36話 Side.Iori 嫌な予感

 大和、遅いな。  俺はリビングで、なかなか帰ってこない弟のことを心配していた。  まだそれほど遅い時間ではないし、外も明るいが、大和は武義とショッピングモールで本を買ったらすぐにスーパーに直行するから帰りはそんなに遅くはならないと今朝言っていたのだ。  それに、何より大和のスマホに電話をしても出ないし、ラインを送っても既読にすらならないことが気にかかっていた。  俺は武義に電話を掛けることにした。 『大和なら綺麗な女の子と一緒にどっか行ったけど』  大和のことを聞く俺に武義はそんな返事を返した。  大和が女の子と……?  俺はすごく嫌な感じがすると同時に嫌な予感をも覚えた。 「その女の子って、うちの学校の子?」  思わず声が険しくなってしまう。 『違うよ。セーラー服着てたしさ』  嫌な予感が的中した。  セーラー服の女の子は十中八九さやかだ。  俺は武義との通話を慌ただしく終えるとスマホを操作し、大和が大学近くの公園の奥にある荒れ地にいることを突き止めた。  ひと気が全くないのでいつも行くなと言っている場所だ。  俺は家から飛び出すと、肺が破裂するかと思うくらいのスピードで走った。  公園を横切り、奥へ続く道を全速力で走り続ける。  そして、荒れ地にたどり着いた俺の目に飛び込んで来たのは、意識がないのかぐったりと地面に横たわる大和と、スマホのカメラで彼を撮っているさやかの姿だった。  大和は制服のネクタイを解かれ、Yシャツをはだけられて、その白くて綺麗な肌がむき出しになっていた。 「大和!」  弟の名前を呼び、近づく俺を見ると、さやかはチッと舌打ちをした。 「いいところで現れやがって。正義のヒーロー気取りかよ」  乱暴な言葉を使うさやかのことはとりあえず無視して、俺は大和を抱き起こす。  大和はすぐに意識を取り戻した。 「……ん……、あれ……? 伊央利……? どうして?」  訳が分からないと言った感じの大和を支えながら、俺は鬼のような目でこちらを見ているさやかに向かって、冷たい声で言葉を投げ捨てた。 「やっぱり、おまえの狙いは大和だったんだな」

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