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第44話 二人の将来2

 その夜、二人は伊央利の部屋で新生活を始めるにあたって必要なものを話し合った。  本当の関係は明かせないけれども両親の許しを得たことで伊央利も大和もウキウキが隠せない。 「本当はベッド、新しくダブルのが欲しいんだけど、それだともし父さんと母さんが様子を見に来たとき、変に思われちゃうからなー」 「う、うん……そうだね……」  ダ、ダブルベッドなんて伊央利、何を言い出すんだろ。恥ずかしくなっちゃうじゃんか……。  大体もし父さんや母さんにちらりとでも寝室を覗かれ、そこにダブルベッドがあったら、どう弁解するというのだ。 「? どうした? 大和、真っ赤になっちゃって」 「べ、別に」 「変な奴。それより新しく買いそろえるのはソファとダイニングのテーブルと――」  伊央利と大和はこの春休みの間に不動産屋を回って、二人で住む新居を決める予定だ。  本当に夢みたい。伊央利と二人で暮らせるなんて。  そりゃこの半年間も二人きりだったけど、あれは仮の二人暮らしで、四月からは正真正銘俺と伊央利は二人の新居で二人きりの生活を送り始める……。  そのことを考えると、大和は高揚感を抑えきれなくて、胸がドキドキしてきてまた頬が熱く火照って来る。 「――だから。って、聞いてる? 大和?」 「え? あ、な、何?」 「だから、テレビは俺の部屋にある方が新しいから、そっちを持ってくぞって……おまえ、さっきからいったい何をそんなに赤くなってるんだ?」  伊央利はそう言って大和の柔らかな頬をふにゃんとつかんだ。  そして、にんまりと笑って見せる。 「おまえ、なんかエローいことでも考えてるだろ? あ、そうか。ベッド。やっぱり新しくダブルベッド買うか? 父さんや母さんは寝室へは絶対にいれないってことにして」 「伊央利っ……。俺、そんなこと考えてないっ。だいたいダ、ダブルベッドなんてそんな無駄な出費できないだろ?」  二人暮らしをするにあたって、伊央利は両親の助けを借りるのは最低限に抑えたいと言っている。  これから未来永劫に二人で愛を育んでいくために今から少しでも自立をしたいという考えからだ。  でもまだ学生の身分では親に頼らざる面が多いのも確かだ。  大学の入学金や学費、生活費の一部もとりあえず両親に出してもらう形になるが、それもいつかは完済したいと言っている。  そんなふうに確固たる決意をする兄を本当にかっこいいと思い、大和もまた彼に追随するつもりだったのに、ベッドのことばかり考えてるみたいに言われて、少々不本意だ。  大和がふくれていると、伊央利が真顔になって言う。 「無駄って、何言ってるんだ、大和。ベッドは大切なんだぞ。ベッドによって眠りの質が変わると言ってもいいんだから。やっぱり広いベッドで眠ると心身ともに解放されて疲れもとれるんだからな」 「そ、そうかな……うん……そうかも……ごめんなさい……」  一応は筋が通った伊央利の説明に若干首を傾げながらも納得する大和。  そんな弟に伊央利は内心、デレデレだ。  本当に可愛いんから。  こんなに可愛い弟を広いベッドに組み敷いて思いっきり泣かせてみたいという気持ちが伊央利の中で育っていく。  それに今使っているベッドは男二人で眠るには(いくら大和が華奢だと言っても)少々狭いのも確かだった。  やっぱりベッドは新しいものを買った方がいいかな。  そうなると、寝室は少々広い部屋が必要になって来る。 「大和、電卓で計算してくれるか?」 「うん」  大和がスマホの電卓機能を出して、伊央利の読み上げる数字をタッチしていく。  予算が想定内に収まるまで二人して、あーだこーだと相談し合い、なんとか出費が予算内に収まりそうになった時にはもう日付が変わっていた。

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