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第1話

ぱちん、ぱちんと小気味のよい音に合わせて、勉強机の上に不格好な三日月が転がっていく。 ハルは、ずいぶん昔に100円ショップで買った可愛らしい爪切りで、その指先を平らかにした。デフォルメされたクマの柄が子供っぽくて、絶対に家以外では使えない。 爪というものは硬いケラチンでできているらしい。授業で習ったそんなことを思い起こしながら、爪の手入れをする。 月に二回、エレクトーンの教室に通っているのだ。これはそのための準備。うっかりすると、つい切るのを忘れて、先生に怒られる。 明日は、そんなエレクトーンの日だ。 「ハルー! 夕飯できたわよ!」 「はぁい」 適当に返事をすると、机の上に爪切りを転がした。 椅子から立ち上がる前にスマートフォンを見やると、メッセージアプリの通知画面が見えた。 同級生たちとのグループトーク。皆、あのドラマを観ただの、部活がなんなのと逐一騒がしい。 ハルはアプリを開くこともせず、通知を消すと、母の待つ食卓へ向かった。 「ハル、エレクトーンのお教室だけど、そろそろ……」 辞めたらどうかしら。母の言いたいことは決まっている。 ハルはエレクトーンに加え、学習塾に通っている。母としては、そろそろそちらへ集中してほしいのだろう。 「うん。でももう、秋の発表会の曲決めちゃったし」 「そう、ね……じゃあそれが終わったら」 「母さん。このコロッケいつもと味が違うね」 「あら。そう?」 ……とはいえ、ハルもエレクトーンに執着しているわけではない。 (夏生、どうしてるかな……) それからは、母の言もほどほどに聞き流して、夕飯を押し込んだ。

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