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最悪な出会い

 大人数の酒の席は気が進まない。  狭苦しい居酒屋の個室に男五人、女五人、計十人も居ると当然賑やかしくて、それぞれの邪な思惑がチラチラと垣間見えるのも好きになれない。  はしゃいだ男達は酒が進むとどんどん積極的になってるし、女の子達もそれに気を悪くしてる風でもなかった。  合コンなんて、何が楽しいのかさっぱり分かんない。  俺はいつも人数合わせだ。  たいして飲み食いもしないのに当たり前に参加費だけ払わされて、一次会が終わるとそそくさと逃げるように帰る。  まぁその参加費は、人数合わせとして俺を呼ぶ後ろめたさからか、友達がきっちり前払いしてくれてるんだけど。  まずこの場に来たくない俺からしてみれば、無駄な出費を重ねてまで女と出会いたいの?って身も蓋もない事を思ってしまう。 「全然飲んでないですね」 「え…?」  何やら割り箸に群がる男達を横目にスマホをイジってると、隣から顔を覗き込まれた。  ……うーわ、すごいイケメン。  何気なくスマホから視線を外すと、やたらと顔面偏差値の高い男と目が合った。  清潔感溢れる真っ白なカッターシャツに濃紺のスラックスという、合コンで馬鹿騒ぎしに来たとは思えない服装を見ると、もしかするとこいつも女寄せで連れて来られたのかもしれない。  明るい茶色の髪は気持ち長めだけど、だからといってチャラチャラしてるようにも見えなかった。  俺の驚く顔を見た男は、気障にフッと微笑んで背凭れに体を預け、少しだけ椅子を寄せてくる。 「お酒飲めないんですか?」 「あーいや、そういうわけじゃないけど」 「なんか……楽しくなさそう」 「楽しいよ、うん。 しらけさせたんならごめんね」 「あぁ、違います。 そんなつもりで言ったんじゃない。 僕こういう場ではしゃぐタイプじゃないから、……君もでしょ?」 「まぁ……」  イケメンは声までイケてる。  周囲に聞こえないように、トーンを落として囁いてくる落ち着いた低音ボイスに不覚にもドキッとしてしまった。  俺が合コンを楽しめない理由が、まさにそこにある。 「七海(ななみ)! 今日一番のイケメンをお前が持ってくと、お嬢様方から非難の嵐がくるぞー」 「誰だか知らないけど持ってかないよ」  数本の割り箸を握り締めて、本日の合コンの幹事を務めている山本がイケメンとは反対隣に腰掛けてきた。  現在テーブルに残ってるのは男五人だけで、女の子達は揃って不在だ。  自己紹介と、食事を挟みながらの探り探りな会話で一時間半が過ぎ、この時間にもなると男女とも「誰が誰にいくか」という話になる。  きっと、メイク直しがてらそんなプチ会議がトイレで繰り広げられているに違いない。  山本以外に知り合いの居ないこの場で、初っ端からやる気のなかった俺は、たとえ女の子達が戻ってきたとしても誰一人覚えてやしないな。 「んな事言って、過去何回……」 「あぁーーっ! やめてよ、マジで!」 「悪い悪い、七海は狙った獲物は逃さねぇもんな」 「狙ってないし!」 「でもマジな話、俺は助かってんだぜ? 七海が来ると毎回頭数減るからさ」 「あんま言うと次から来てやんない」  酔いに任せて余計な事まで口走っている山本に膨れて、気紛れに飲みかけだったウーロンハイに口を付けた。  この山本は、俺が男しか好きになれない事を知っている。  背は低いけど見た目だけは今風で「普通」な俺を、度々人数合わせで合コンに誘い出す山本の考えなんてお見通しだ。  男にしか興味がない俺を連れてけば、競争相手が一人減る。  必死で今夜の相手や無二の彼女を探している彼らからすると、一人頭数が減るというのは感謝に値する事らしい。  そして俺は何故か、ノンケからよく好かれるタイプのゲイだ。  山本が言いかけたように、俺は過去に何度も、女の子を探しに来たはずの男からお持ち帰りされている。 「あはは…! 冗談抜きで、七海が今日一番人気の和彦持っていってくれたらなって俺は思ってる」 「山本、怖いよ。 目が血走ってる」 「俺は三ヶ月も女に触れてねぇ。 今日こそはってガチってんだ」 「怖っ。 てか、その割り箸なに?」  俺の左隣に座るイケメンは見るからにノンケで危なそうだけど、もし万が一誘われたとしても今日はこれから約束があるからどっちにしろ無理だ。  割り箸を持ってニヤついている山本には悪いけど。 「あ、これか? 今お嬢様方はメイク直し行ってんだけど、それもこれもこの王様ゲームのためだ!」 「王様ゲーム?」 「王様ゲーム?」  俺とイケメンの声が被った。  それでさっきから割り箸片手にウロウロしてたのか。 「王様ゲームってまた古典的な…」 「俺は初王様ゲームだぜ! 今な、男連中に気に入った子聞いて回ってたんだ。 和彦、お前は誰狙いだ?」

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